アシックス、神戸マラソンにAI戦略投入 トップ選手の走り方を数理最適化

2025年11月16日、神戸市で開催される「神戸マラソン2025」で、アシックスがAIによる「AIレースシミュレーター」を初めて導入する。神戸のスタートアップと共同開発した技術で、女子招待選手2人が当日この戦略を基に走る予定だ。
AIが選手能力・気象・地形を統合し、最適ペースを算出
アシックスが投入するAIレースシミュレーターは、ランナーの身体能力、コースの地形、気象条件に加え、持久系競技に関する複数の学術論文などをAIが学習している。
さらに、アシックスのスポーツ工学研究所が蓄積してきたトップアスリートのレース中の判断や位置取りの傾向といった定性的データも学習させている。
これにより、一定区間ごとのレース戦略を細かく提示し、最適ペース配分を導き出す仕組みである。
今回は大会3日前の11月13日に最新の気象データを入力し、最終的な戦略を確定させる。
開発は神戸市中央区のスタートアップ「Godot」と共同で進められ、行動科学とAIを組み合わせた分析手法が生かされている。
トップアスリート向けの試作段階である一方、将来的には一般ランナー向けにも発展させる計画だ。
AI戦略の普及が示す新潮流 競技の高度化と依存リスクの両面
AI主導の戦略設計は、マラソン競技が経験則中心の運用から、データとシミュレーションを基軸とする新時代へ移行する兆しを示している。
算出されたデータによって、選手は当日の環境に最適化されたペース指標を得られるため、無駄な消耗を抑えつつ記録の向上を狙いやすくなる利点がある。特に風向きや勾配の影響を受けやすい市街地マラソンにおいて、区間ごとの精緻な判断材料は大きな武器となるだろう。
一方で、AIの提示するモデルに依存しすぎた場合、レース中の突発的な展開や集団の動きに柔軟に対応しにくくなる懸念もある。選手が数値に引きずられることで、本来の判断力が発揮しづらくなる可能性も否定できない。
今後は一般ランナーが自らの走力に応じた戦略を生成できるようになれば、マラソン大会の体験価値が大きく変わると考えられる。レース完走支援ツールとして普及する余地も広く、神戸発の技術が国内外の市民マラソンへ波及する展望がある。
AIが競技現場の意思決定をどこまで支えるか、その境界線をどう設計するかが次の論点になるだろう。
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