EU委員長、AIを活用した自動運転車の開発を呼びかけ 米中に遅れた産業競争力の巻き返し狙う

2025年10月3日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長はイタリア・トリノで講演し、自動車産業の再興と交通安全の向上を目的に、EU全体でAI自動運転車の開発を推進するよう呼びかけた。米中の先行に対抗し、欧州産業の主導権を取り戻す狙いがある。
EU委員長、AI自動運転車の開発を域内総力戦に
フォンデアライエン欧州委員長は3日、イタリア自動車産業の中心地トリノで開催されたハイテク関連イベントに登壇し、「自動運転車はすでに米国や中国では現実となっており、欧州でも同じであるべきだ」と強調した。
域内の自動車メーカーや自治体、研究機関が一体となって、AI(人工知能)技術を活用したモビリティ開発を加速させるべきだとの考えを示した形だ。
同委員長は産業界に対して「AIファースト」戦略の採用を求めた。
これは従来の「安全第一」を、AI活用の方針と結びつける考え方である。
EUは技術開発で米中勢に大きく遅れを取っており、欧州車の競争力は低下している。
こうした背景から、フォンデアライエン氏は自動運転車の実証実験を行う都市ネットワークの設立も提案している。
すでにイタリアの60都市が参加に関心を示していると明かし、「欧州製で欧州の道路を走るための車」を支援する方針を表明した。
技術覇権争いの分岐点 欧州が直面する課題と可能性
EUのAI自動運転戦略が本格化すれば、欧州産業にとって複数のメリットが見込まれる。
長年の主力産業である自動車分野で技術主導権を奪還する可能性は高まるだろう。
また、自動運転技術の確立は、交通事故の削減や物流の効率化を促し、都市交通や公共インフラの構造自体を刷新する契機にもなり得る。
スタートアップや研究機関への投資も活発化し、域内イノベーションの波及効果も期待される。
一方で、課題も少なくない。
AI制御の安全性やサイバー攻撃への耐性といった技術的リスクは依然として高いため、法やデータ利用のルールを整備することが必要だろう。さらに、膨大な研究開発費とインフラ投資が求められるため、官民の協調も不可欠になると予測できる。
産業構造の再編は既存雇用への影響も避けられず、社会的合意形成にも時間がかかるとみられる。
それでも、EUが戦略的な産業政策の下で域内連携を強化できれば、米中との格差を埋める可能性は十分にある。
今後は各国の政策調整と規制整備がどこまで迅速に進むかが、欧州が再び自動車技術の主導権を握れるかどうかの分水嶺となるだろう。











