日立システムズら、AI活用の予防医療基盤を構築 100万件のRWD解析で健康指導を効率化

2025年9月2日、日立システムズと神奈川県、メドミライ、東京大学は、2024年度AMED公募事業「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業」の一環として、生成AIを活用した予防・健康づくりの研究開発基盤の構築を発表した。約100万件の匿名化リアルワールドデータを解析し、AI搭載の分析基盤を実用化する。
AI搭載の分析基盤で保健指導を自動化
今回の研究開発では、メドミライが提供する「行動変容促進アプリケーション(MIRAMED)」を核とし、神奈川県が保有する国民健康保険データベース(KDB)から抽出した約100万件のリアルワールドデータ(RWD ※)を活用した。
新基盤ではダッシュボードとAIエージェント機能を備え、特定保健指導における状況把握から支援内容の提案、個別リスクに応じた健康指導文面の自動生成まで一貫して対応できる。
ダッシュボード機能は、健康状態の数値データを自動でグラフや表に変換し、保健師の意思決定を補助する。AIエージェントは対象者ごとの健康情報を解析し、適切なレポートの生成を手助けする。
これらの新機能により、従来は手作業で多大な時間を要した業務を効率化し、人的負担を大幅に削減することが可能になる。
今回の分析基盤は、地域の健康課題に応じた施策立案を支援し、未病の改善や健康寿命延伸といった長期的な保健医療の課題解決に貢献することが期待される。
※リアルワールドデータ(RWD):実際の診療や健診などで収集される、日常の臨床現場に基づく実データ。
予防医療の高度化とAI依存のリスク
この基盤の導入は、予防医療の効率化を進める手助けとなるだろう。
過去の症例と照らし合わせた予防医療に関する情報のデータ分析は、今後の医学・保健業界において多くの変化をもたらすと考えられる。
ただし一方で、AI依存に伴う新たな課題も孕んでいる。
まず、データ利活用の推進は、個別化医療を実現する大きな契機となるが、個人情報保護や匿名化データの再識別リスクへの対策は不可欠だ。
ツールを最適に活用するためにも、プライバシー保護と活用の両立をどこまで高い精度で実現できるかが、今後の普及の鍵を握るだろう。
また、保健師や行政にとって業務負荷の軽減は大きなメリットである。限られた人員で多くの住民を支援できる体制が整えば、コスト効率の高い健康増進施策が可能になるとみられる。
しかし同時に、AIの判断根拠や提案内容の透明性を担保する必要があり、説明責任の体制を強化しなければならないだろう。
今後は、神奈川県での成果が他自治体や民間保険者へ波及するかが注目される。
全国規模の展開が進めば、予防医療の質と持続性が飛躍的に向上する一方、AIガバナンスや制度設計の不備を避けるシステム作りが急務と言える。
日立システムズ ニュースリリース:https://www.hitachi-systems.com/news/2025/20250902.html