EUのAI覇権戦略が加速 「ギガファクトリー」構想に76社が殺到

2025年6月30日、欧州委員会のビルクネン副委員長は、EUが推進するAIインフラ整備計画「AIギガファクトリー」構想に対し、76社からの応募があったと発表した。
76社がEUのAI拠点建設に名乗り 想定以上の関心集まる
欧州連合(EU)が描くAI産業の大規模インフラ構想「AIギガファクトリー」に対し、加盟16カ国の60候補地から76件の応募が寄せられた。
これは2025年6月30日、欧州委員会のビルクネン副委員長(デジタル問題担当)が記者会見で明かしたものである。
同構想は、米中に対抗する形でEUが2月に発表したもので、総額200億ユーロ(約3.4兆円)の基金を活用して、EU域内にAIギガファクトリーを4カ所建設する計画だ。
拠点には約10万個の最先端AI半導体(※)が設置され、AIコンピューティングと大規模なデータストレージのハブとして機能する。
ビルクネン氏は企業名こそ明かさなかったが、応募企業には欧州内外の大手テック企業、データセンター運営者、電力・通信インフラ企業、さらには金融投資家まで多様なプレイヤーが含まれているという。
また、これら企業は合計で300万個以上の最新世代GPUを調達する意向を示しており、EUのAIエコシステム拡大への期待がうかがえる。
※AI半導体:人工知能の演算処理に特化した高性能チップ。特にGPU(画像処理装置)がAIトレーニングと推論処理に不可欠とされる。
欧州主導のAI基盤構築なるか 経済圏を超えた競争も視野に
今回の構想に対する過熱気味とも言える反応は、AIインフラの覇権を巡る世界的競争の激化を象徴している。
米国ではNVIDIAやOpenAIを中心にAI半導体とクラウド基盤の寡占が進む一方、中国は国主導でAIインフラ整備に巨額投資を継続している。これに対抗する形でEUが「デジタル主権」の確立を目指すのは当然の流れとも言える。
今後数年の展開によっては、欧州が「米国と中国に次ぐ第三の極」としての立場を築く可能性もある。ただし、そのためには域内技術の自立性を高めるとともに、サプライチェーンの多角化や資源の確保、そして政治的統一性の維持が欠かせない。
AIにおける主導権争いは、もはやテクノロジーだけの競争ではなく、経済安全保障と国際競争力をかけた総力戦へと移行している。
ギガファクトリー設立は、単なる産業拠点の構築にとどまらず、AIモデル開発、エネルギー効率の高い運用体制、地域雇用の創出など多方面にわたる波及効果が見込まれる。
特に、域内でのデータ主権を守る観点からも、欧州内に独自のAI演算基盤を構築する意義は大きいだろう。
一方で懸念材料もある。まず、AI半導体の供給は依然として米国企業への依存度が高く、300万個超の調達はNVIDIAをはじめとした海外メーカーへの依存リスクを内包している。
年末に予定される正式公募では、技術力だけでなく、持続可能性や地域社会との共生が問われることになりそうだ。
欧州が真に「第三極」としてのAI基盤を確立できるかは、今後数年の展開次第であるといえる。