イーサリアム財団、プライバシー領域に向けたPrivacy Cluster発足

2025年10月8日、イーサリアム財団(Ethereum Foundation、以下EF)は、プライバシー技術の研究開発を専門とする新組織「Privacy Cluster(プライバシー・クラスター)」を設立したと発表した。
分散型インフラとしての信頼性を高めるため、プライバシーを中核とした技術体制の強化に踏み切る。
プライバシーを「人間の尊厳・安全・自由の前提」に 47名の研究者が結集
EFは発表で、プライバシーを「何を共有するか、いつ共有するか、誰と共有するかを選択する自由」と定義した。
現実世界では当然に守られる行為が、オンラインやオンチェーン上では十分に保護されていないと指摘し、プライバシーを人間の尊厳や安全、自由を支える根幹と位置づけた。
この理念を具現化するため、EFは新組織「Privacy Cluster」を設立した。
組織はプライバシーコーディネーターのイゴール・バリノフ氏を中心に、暗号学者・エンジニアなど47名で構成。基礎研究からプロトコル実装、機関との連携までを包括的に担う。
主要プロジェクトとして、プライベートな決済や投票を低コストで可能にする「Private Reads & Writes」、情報を明かさずに資格や資産を証明する「Private Proving」、ゼロ知識ID(zkID)を用いた「Private Identities」などが並ぶ。
さらに、ユーザー体験を向上させる「Privacy Experience」や、企業向けの規制対応支援チーム「Institutional Privacy Task Force」、そして暗号技術を誰でも簡単に扱えるようにするSDK「Kohaku」も展開される。
「選択的信頼」が鍵となる新しいプライバシー社会へ
今後、プライバシー・クラスターの動向は、イーサリアムだけでなく、分散型社会全体の設計思想を左右する指標となるだろう。
特に、ゼロ知識証明(※)をはじめとする暗号技術の進化によって、個人データを「共有せずに証明する」仕組みが実用化すれば、オンチェーン取引の信頼性と匿名性の両立が進む可能性がある。
これにより、DeFiやDAO、さらには医療・行政分野など、個人情報保護を要する領域でのブロックチェーン利用が一気に拡大していくと予想できる。
一方で、プライバシー保護の徹底は、監査や法的追跡を困難にするという新たな課題を生む可能性がある。
今後は、完全な匿名化ではなく、「限定的な開示」や「選択的証明」を制度的に認める仕組みが求められるかもしれない。
長期的には、企業・自治体・個人が共通のプライバシー基準をもとに安全なデータ共有を行う社会モデルの構築が期待できる。
もしこの構想が定着すれば、ブロックチェーンは「透明すぎる技術」から「選択的に信頼できる技術」へと進化し、次世代インターネットの礎となる可能性が高い。
※ゼロ知識証明(ZK:Zero-Knowledge Proof)とは、情報を明かさずに「知っている」ことだけを証明する暗号技術。
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