AI活用アニメ「小泉八雲のKWAIDANの世界」 異なる映像表現で放送へ

2025年9月6日、株式会社DLEと山陰中央テレビジョン放送は、小泉八雲の怪談作品を原作とするショートアニメ『小泉八雲のKWAIDANの世界』を共同制作すると発表した。
全編でAIを活用した制作手法を採用し、10月2日から地上波放送を開始する。
AIで怪談をアニメ化 二つの表現で同時展開
今回の作品は、島根県松江市にゆかりのある小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の怪談文学を題材にした新企画である。
最大の特徴は、全編でAIを導入したアニメーション制作に挑戦した点だ。
一つは、従来の2Dアニメ調を踏襲した「アニメルック版」。
もう一つは、AIによるフォトリアルな映像生成を活用し、怪談の恐怖感を強調した「実写ルック版」である。
両バージョンを異なる枠で同時期に放送する。
監督は「秘密結社 鷹の爪」シリーズで知られるFROGMANが務め、アニメーションはDLEのOBETA AI STUDIOが担当する。
ナビゲーションキャラクター「紺霞」のデザインは松江市出身の漫画家いずみせら氏が手がけ、声優には茶風林や伊藤美紀らが参加する。
地方局と制作会社がAIを武器に挑む新しい映像体験は、地域文化とテクノロジーの融合を体現している。
山陰中央テレビの田部社長は「スピード感を持ってできた企画でもあり、これまではできなかったこと。AIを使うことで地方局でもこんなチャレンジができるのはあらたな扉が開いた印象だ」と語り、企画が持つ突破力を強調した。
制作を率いたFROGMANは「AIでは今まで簡単には作ることができなかった実写風など様々なルックを試すことができ、海外向けに多言語化なども容易にできる。こういった地方との取り組みも今後増えると思っているし、地方から世界に発信できるところを証明したい」と意気込みを示した。
また、「AIには魂が感じられず不気味と言われるが、ホラーや怪談にはそれが逆に向いているかもと感じた」と独自の視点も示した。
地方発AIアニメが拓く新しい文化発信モデル
AIを全面導入したアニメ制作は、短期間で多様な表現を実現できる利点を持つと考えられる。
今回のように「アニメルック版」と「実写ルック版」を同時に展開できる事例は、地方局にとっても低コストで多様な作品を制作できる有効な手段となるだろう。
短期的には、AIによる独自コンテンツの制作が地方文化発信の新しいモデルとして注目を集め、他地域にも広がる可能性がある。
中期的には、誤生成や一貫性の課題を克服できるかが鍵となり、技術の成熟が定常化の条件になるだろう。
また、多言語化や海外展開のしやすさを活かせば、地方発の文化コンテンツがグローバル市場に進出する可能性も高まる。
長期的には、AIと人間の協働によって地域文化を再解釈する新たな表現が生まれる一方で、効率性に偏れば、大量消費的なコンテンツに埋没する危険も残ると推測できる。
この試みが一過性か、持続的な文化発信の基盤となるかは、今後数年で見極められるだろう。
山陰中央テレビジョン放送株式会社 プレスリリース:https://www.dle.jp/jp/news/ai_1/3531.html
株式会社ディー・エル・イー プレスリリース:https://www.dle.jp/jp/news/ai_1/3531.html
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