生成AIで点字デジタルアート 視覚障害者の心象風景を表現

2025年8月31日、兵庫県姫路市で画家の寺前高明氏が考案した「点字デジタルアート」の体験会について、毎日新聞によって報じられた。
生成AIを用いて視覚障害者の心象風景を画像化し、点字や音声で表現する取り組みである。
生成AIで心象風景を可視化 視覚障害者が制作に参加
寺前氏が発案した点字デジタルアートは、視覚障害者が抱く心の風景を生成AIで表現する新たな試みだという。
従来、絵画表現は視覚を前提とするものだったが、この手法は障害の有無にかかわらず創作に参加できる点が特徴となる。
発想の契機は、寺前氏が視覚障害者による俳句作品に触れ「どんな心象風景を思い描いているのだろうか」と疑問を抱いたことにある。
そこから対話によって得られる言葉をAIに入力し、心象を映し出す画像として生成する仕組みを構築した。
制作の流れは、表現したいイメージや、体験者が幼少期の記憶や自然との関わり、好みの音や香りを語るところから始まる。
寺前氏はその内容をプロンプト(※)に変換して画像を生成し、さらに対話を重ねながら修正を加える。
最終的な作品は画像だけでなく、点字プリンターで出力した点図や音声解説を組み合わせ、晴眼者と視覚障害者双方が鑑賞可能な形に仕上げられる。
体験会には同市在住の60〜70代の視覚障害者3人が参加したという。ある女性は「10年後の私」と題し、昔から好きだった赤いバラを題材にした作品を制作。失明後の葛藤や心境の変化を込めたイメージを反映させた。
寺前氏は点字デジタルアートについて「今後、多くの視覚障害者と対話して、心の中の風景を絵として表現してみたい」と語ったという。
※プロンプト:生成AIに入力する指示文のこと。ユーザーの意図や要望を具体的に伝える役割を持つ。
AIが拓く「誰もが参加できる芸術」のスタンダード化
点字デジタルアートは、芸術表現における新しい可能性を切り拓く手法として注目できる。
生成AIを用いて視覚障害者の心象風景を表現する試みは、障害の有無を超えて創作の参加機会を広げ、芸術の概念そのものを拡張する契機となりうるだろう。
今後の展望としては、教育や福祉の現場での導入が進むと考えられる。
美術館での鑑賞支援や学校での活用によって、芸術教育のアクセシビリティが高まり、共生社会の実現を後押しするだろう。
さらに、視覚以外の感覚を活用した表現手法が確立されれば、芸術は「視覚中心」という枠を超え、多様な人々が自らの内面を表す普遍的な手段へと発展する可能性がある。
ただし、普及に向けては課題も残る。
生成AIに適切な指示を与え、出力を本人の意図に近づけるには調整と伴走が欠かせず、専門人材や支援体制の整備が求められるだろう。
また、AIが生み出した成果物を社会の中でどのように評価・位置づけるかという議論も避けられないと考えられる。
こうした課題を乗り越えることができれば、点字デジタルアートは「視覚障害者のための特別な試み」にとどまらず、AIと人間が協働する新しい芸術のスタンダードとして定着する可能性がある。
芸術とテクノロジーの融合がもたらす価値は、従来の枠組みを超え、創造のあり方そのものを拡張していく未来を示唆している。
点字デジタルアート公式サイト:https://braille-digiart.com/
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