AIが超多剤耐性菌の新抗生物質を創出 淋菌・MRSAに有効、創薬プロセスに革命

2025年8月14日、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、生成AIを用いて淋菌およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対抗する新たな抗生物質候補を設計したことが報じられた。
動物試験でも効果が確認されており、AI創薬の実用化に向けた大きな前進となる。
AIが淋菌・MRSAに有効な2種の新規抗生物質候補を設計
MITの研究チームは、既知の化合物の分子構造と抗菌作用の関係をAIに学習させた上で、3600万種類におよぶ仮想化合物の中から淋菌およびMRSAに対して高い効果を持つ可能性のある分子構造を探索した。
設計にあたっては、既存の抗生物質と過度に類似した構造や人体に有害と予測される分子を除外し、8〜19個の原子から成る化学断片をもとに候補分子を組み合わせた。
また、AIに自由設計させるアプローチも同時に適用した。
開発された化合物のうち80種類を合成候補として絞り込み、実際に製造された2種類を試験した結果、いずれも実験室内で耐性菌を死滅させただけでなく、細菌に感染したマウスに対しても効果を示した。
研究を主導したジェイムズ・コリンズ教授は「生成AIを使ってまったく新しい抗生物質を設計できることを示せたので、非常に興奮している」とコメントした。
一方で、臨床試験に進むまでには改良と検証を重ねる必要があり、実際に人に処方できるまで1〜2年を要する見通しだ。
英インペリアル・コレッジ・ロンドンのアンドリュー・エドワーズ博士は「AIは創薬と開発を劇的に改善する可能性を秘めているが、安全性と有効性の検証に関しては、依然として地道な努力が必要だ」と指摘している。
AI創薬が感染症治療に変革をもたらす鍵に 実用化には長期的支援が課題
AIによる抗生物質候補の効率的な設計が可能となったことは、耐性菌の急増によって危機的状況にある感染症治療において、今後大きな転機となる可能性がある。
これまで数年を要していた候補物質の探索が短期間で実施できるようになれば、創薬プロセス全体の効率化が進み、新たな治療薬の供給スピードが大幅に高まることが期待できる。
将来的には、AI創薬が感染症領域における“第2の黄金時代”を切り拓く役割を担うことになりそうだ。
AIの学習精度が向上するにつれ、より複雑な構造を持つ病原体への適用も可能となり、適応範囲が着実に広がっていくと見込まれる。
また、合成可能性を評価するアルゴリズムや臨床試験向け適性評価モデルが発展すれば、実用化までの期間はさらに短縮されるだろう。
一方で、臨床試験には依然として相当なコストと期間が必要となるため、技術革新だけでは実用化には至らない可能性がある。
今後は、産学連携の強化や公的支援による資金確保といった長期的な研究体制の整備が進むかどうかが、AI創薬の成果を社会実装につなげられるかを左右すると考えられる。
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