アクソン、企業買収でAI人材獲得へ 報酬競争で巨大テックに及ばず

2025年8月13日、米公共安全技術大手アクソン・エンタープライズは、AI人材の報酬高騰で採用競争が激化する中、企業買収を通じた人材確保に力を入れていることが報道された。
報酬額で大手に及ばず、買収で人材確保へ
テーザー銃やボディカメラを手がけるアクソンは、次世代製品の開発に向けたAI人材確保を優先課題としている。
ジョシュ・イズナー社長によれば、過去1年で採用チームの規模を倍増させたものの、マイクロソフトやアルファベット、メタ・プラットフォームズなどが提示する破格の条件には対抗できないという。
メタは最近、アップルのエンジニアを2億ドル(約300億円)超の報酬で引き抜き、別のAI研究者には10億ドル超の契約を提示したとされる。
イズナー氏は「われわれはメタやグーグル、マイクロソフトのような報酬を提示できない」と述べ、報酬より社会的意義を重視する人材を求めていると語った。
また同社は、技術の即時大規模展開が難しくとも有望な人材を抱えるAIスタートアップを買収し、チーム強化を図る方針だ。
加えて、採用・定着施策の一環として本社のあるアリゾナ州で社宅建設を計画している。
2024年にも同社は、ハーバード大学やMITからの人材確保を目的にボストン拠点を開設したが、高所得者層に課される「ミリオネア税(※)」が障壁となっているという。
アクソンの株価は過去2年で約250%上昇し、S&P500構成銘柄の中でも高いパフォーマンスを記録している。
それでも、報酬競争では巨大テック企業に後れを取る構造は変わらないようだ。
※ミリオネア税:米マサチューセッツ州などで導入されている、高所得者(年収100万ドル超)に対する追加課税制度。
AI戦略は外部活用も選択肢、映像解析精度向上へ
今後、アクソンのように企業買収を通じてAI人材を確保する戦略は、報酬競争で不利な立場にある中堅企業にとって有力な選択肢として定着していく可能性が高い。
自社でゼロから人材を育成するよりも、すでに実績やスキルを備えたチームを一括で取り込む方が、短期間での技術力向上に直結するとみているのだろう。
一方で、買収後には文化的な摩擦や経営方針の不一致から人材が流出するリスクも大きく、報酬面での劣位が続けば優秀な人材の定着は難しい状況が続くと考えられる。
即効性のある戦力補強としては有効であっても、長期的には外部依存の強まりが自社内の人材育成を停滞させる恐れもある。
AI人材の報酬高騰は当面沈静化の兆しがなく、スタートアップや中堅企業は引き続き獲得競争で不利な立場に置かれる見通しだ。
そのため、企業買収による人材と技術の同時確保は今後も一定の流れとして続くと予想できる。
同時に、外部リソースを活用するオープンイノベーション型のAI戦略も広がっていく可能性がある。
大学や研究機関との連携、クラウドベースの解析サービスの外注など、多様な形態で技術力を補完する動きが加速するだろう。
最終的には、単なる報酬額ではなく「働く価値」を包括的に提示できるかどうかが、中堅企業の生き残りを左右する要因になりそうだ。
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