サウジ政府系ファンド、AI活用が運営全域に拡大 投資判断から報告まで変革

2025年8月13日、サウジアラビアの政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」は、AIとオートメーションが運営のあらゆる層に浸透し、投資対象の選定から運用方法まで変革していると訴えた。
AIが投資業務の中枢に浸透、評価と運用を高速化
PIFは年次報告書の中で、AIが国家基金の意思決定、資本配分、価値評価の手法を根本から変えたと強調した。
特に、民間市場への投資評価において、精度とスピードを高めるAIプラットフォームを導入したほか、投資状況をリアルタイムで報告するために独自の大規模言語モデル(※)を開発した。
さらに、資産運用会社の分析やポートフォリオ最適化にもAIツールを活用しているという。
2024年末時点の運用資産は3兆4,240億リアル(約9,126億ドル)で、今年6月に報告された4兆3,210億リアルを下回った。
これは会計基準の変更によるもので、資産減少を意味しないと説明されている。
PIFは、サウジの経済多様化を掲げる「ビジョン2030」の中核を担い、活動領域を従来の株式やインフラ投資から大きく拡大してきた。
近年は米配車大手ウーバー、EVメーカーのルーシッド・グループ、日本の任天堂などグローバルブランドへの投資に加え、LIVゴルフや英プレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドなどスポーツ事業も支援している。
国内では紅海沿岸の巨大都市計画「NEOM」をはじめ、観光、物流、クリーンエネルギーなど戦略分野に数十億ドル規模の投資を実施してきた。
※大規模言語モデル(LLM):大量のテキストデータを学習し、人間の言語を理解・生成できるAIモデル。質問応答や文章作成、要約など幅広い自然言語処理に利用される。
AI主導の投資運営、国際標準化への道と潜在リスク
PIFのAI活用は、今後も投資判断と運用プロセスの高速化・精度向上を推進する中核的な手段として発展していくとみられる。
膨大なデータを短時間で処理するAIプラットフォームの進化により、投資対象の評価や資本配分の効率化が一層進み、変動の激しい国際市場での競争優位性を強化するだろう。
さらに、大規模言語モデルを活用したリアルタイム報告体制は、意思決定層への情報提供を加速させ、迅速かつ柔軟な戦略修正を可能にすると予想できる。
一方で、AI依存度の拡大は構造的なリスクを伴い続ける。入力データの質や更新頻度が精度を左右するため、誤情報や偏ったデータによる誤判定リスクは残る。
また、自動化の高度化により、非定量的要素への人間的洞察が軽視される懸念もあり、地政学的リスクや規制の急変といった定量化困難な要因には依然として課題が残ると考えられる。
短期的には、グローバル投資先の拡大や新興分野への迅速な参入において、AI分析の優位性が顕在化し、運用効率と収益性の向上が期待できる。
中期的には、リスク管理や資産最適化の高度化が進み、他国の政府系ファンドや民間投資機関にとって参照すべきモデルケースとなる可能性が高い。
最終的には、PIFのAI中心型運営モデルが国際的な投資運営の標準の一つとして位置付けられる未来も視野に入るだろう。
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