南九州市、AI乗り合いタクシー実証開始　交通弱者の移動支援へ

2025年7月15日、鹿児島県南九州市がAIを活用した予約型乗り合いタクシーの実証実験を10月に開始することが報道された。
運転手不足が深刻化する中、トヨタPC鹿児島HDと連携し、地域交通の維持と高齢者らの移動支援に乗り出す。

南九州市がAI乗り合いタクシーの実証実験を開始

南九州市は、AI（人工知能）を活用した乗り合い型の次世代交通システム「チョイソコひまわり」の導入に向け、トヨタPC鹿児島ホールディングスと連携協定を締結した。
2025年10月から市内の知覧、川辺、頴娃で実証実験を開始し、来年2月の本格運用を目指す。

このプロジェクトは、AIによって最適な配車ルートを自動で算出し、複数の利用者が効率的に乗り合わせる仕組み。
スマートフォンのアプリや電話からの事前予約により、自宅近くまでの送迎が可能となる。

背景には、南九州市を含む地方部で深刻化する運転手不足などがある。
こうした課題に対し、デジタル技術を活用した交通のDX（※1）によって、高齢者や免許返納者などの「交通弱者」を支援することが狙いだ。

塗木弘幸市長は「地域の足を守ることは重要な課題でありまして、市民の皆様が安心して暮らせるまちづくりの推進につながることを強く期待しています」とコメントした。

また、トヨタPC鹿児島HDの中村博之社長は「グループのリソースを最大限に活用してもっと精力的に活動し、より強く地域の活性化を進めていきたいと思っております」と語った。

※1 DX：デジタルトランスフォーメーションの略。ITやAIなどの技術を活用して社会やビジネスの在り方を根本的に変革すること。

地域交通の未来像　DXによる移動支援と持続可能性の模索

AI乗り合いタクシーの導入は、高齢化や人口減少に直面する地方自治体にとって、有望な選択肢の一つとなる可能性がある。
従来のバス運行に比べ、運転手数の最適化や運行コストの削減が見込まれるため、財政面の負担軽減にもつながるだろう。

また、オンデマンド型の柔軟な運行形態は、利用者の生活リズムに合った利便性を提供できる点で、従来の固定路線型交通の限界を補完するとみられる。
スマートフォンを活用した予約受付とリアルタイム配車は、利用者の体験向上にも寄与するだろう。

一方で課題もある。
高齢者を主な対象とする以上、ITリテラシーの格差が利用機会の不平等を招く懸念がある。アプリの操作性や予約の簡便化は、サービス普及の鍵を握るとみられる。
加えて、AIによる運行管理の精度や緊急時の対応体制など、安全面への配慮が求められるだろう。

南九州市のAI乗り合いタクシー実験は、今後、全国の「交通空白地帯」における地域交通再構築の先進モデルとして注目を集めていく可能性がある。
従来の大量輸送中心の公共交通から、少量・多便・柔軟対応型のモビリティへと移行が進む中、AIやIoT（※2）を活用したシステムは、地域の実情に即した持続可能な移動手段として広がっていくとみられる。

※2 IoT：モノのインターネット。デバイスが相互に通信し制御する仕組み。