ドイツ小売最大手がAI拠点整備に本腰 数十億ユーロ規模の投資で欧州の主導権狙う

2025年7月11日、ブルームバーグは、ドイツのシュワルツ・グループが欧州におけるAI戦略の中核拠点「ギガファクトリー(※)」構築に向け、数十億ユーロを投資する計画を政府に提示する見通しだと報じた。
EUの補助金枠獲得を巡り、国内大手企業との連携も進む。
シュワルツGがAI拠点整備で政府と協議へ
ドイツ最大の小売業者であり、「リドル」や「カウフランド」などを展開するシュワルツ・グループが、AI分野の主導権を握るべく欧州での大規模データセンター建設に乗り出す方針を示している。
11日に開かれる政府との協議で、数十億ユーロ規模の投資計画を提示する見通しだという。
関係者によれば、非公開企業である同グループは、EUが用意する総額200億ユーロの補助金枠の獲得を狙っている。
ドイツ政府はAIやクラウド技術の戦略的自立を掲げており、シュワルツを含む複数企業との協議の場が設けられる。
会合には、通信大手ドイツテレコムやソフトウェア大手SAPも招かれていることが確認されている。
シュワルツの広報担当は入札への関心を認めたが、詳細は明らかにせず、SAPもコメントを控えている。
ドイツ・デジタル省の報道官は、今回の取り組みについて「ドイツおよび欧州のテクノロジー依存を減らし、AIやクラウド、半導体、サイバーセキュリティ―といった主要技術に関してわれわれ独自の専門性を大幅に強化したい」とメールで説明した。
※ギガファクトリー:AIや半導体開発、データ処理などを目的とした大規模なITインフラ拠点のこと。
欧州の“技術的主権”実現へ 民間投資と国家戦略の交差点
今後、今回の協議はドイツおよびEUが掲げる「デジタル主権」実現に向けた具体的な一歩として、域内各国への広がりを見せる可能性がある。
中国や米国の巨大テック企業への依存度を下げ、域内のインフラや技術で自立する体制を築いていくだろう。
そのなかで、シュワルツ・グループの参入は象徴的だ。
これまで主に小売業で知られてきた同社が、AIやクラウド領域に本格投資を行うことで、業界の垣根を越えた構造変革が進む可能性もある。
一方で、AIインフラへの大規模投資は、初期コストや電力消費、セキュリティ対策など複合的な課題を伴うため、公的補助の適正な配分と民間企業による透明性ある運営が一層重要となるだろう。
こうした課題への対応次第では、欧州全体のデジタル戦略の成否を左右することにもなりかねない。
今回の動きは、ドイツ政府とEUが進める「デジタル主権戦略」の中核であると思われる。
非IT企業による参入が、他業種にも波及し、欧州のAI投資全体を押し上げる可能性もあるだろう。