日立がAIで現場安全支援を高度化　NVIDIAのOmniverse活用しデジタルツイン展開へ

2025年7月8日、日立製作所は、NVIDIAの仮想空間技術「Omniverse」を活用し、熟練作業者の知見を学習したAIエージェントによって作業現場の安全性を高める「現場安全高度化ソリューション」を発表した。
建設やプラント分野など、作業現場の教育や事故防止支援を想定している。

AIとデジタルツインで現場のリスクを可視化

日立が発表した「現場安全高度化ソリューション」は、AIエージェントとデジタルツインを組み合わせ、作業現場の安全性を高める取り組みである。

AIエージェントは、日立グループが持つ数百件の制御運用系技術（OT）の知見をもとに構築されており、熟練作業者の判断基準や暗黙知を学習する。
これをもとに作業現場を仮想空間上に再現し、作業者に対して視覚的に手順や注意点を提示する仕組みだ。

仮想環境の構築には、NVIDIAの3D設計プラットフォーム「Omniverse（※1）」が活用され、リアルな現場再現が可能となっている。
すでに日立プラントコンストラクション柏事業所では、2026年3月の本番導入を視野に準備が進められている。

日立の取り組みは、単なる教育支援にとどまらない。
AIエージェント群は、作業者の職種や経験年数、作業内容に応じて構成され、個々の状況に合わせた支援が可能となる。
「Frontline Coordinator – Naivy」（※2）の心理的負担軽減技術なども組み込まれており、ストレスの少ない作業支援環境を実現するという。

さらに、日立の「リスクマネジメント高度化ソリューション（※3）」と連携することで、AIエージェントに安全管理の知見を統合する。デジタルツイン上で危険シナリオをシミュレーションすることで、現場特有のリスクを誰もが把握できる仕組みを整備するとしている。

※1 Omniverse（オムニバース）：NVIDIAが提供する仮想空間開発基盤で、3Dデジタルツインの構築や物理シミュレーションに対応。建設・製造・交通などの産業分野での活用が進んでいる。

※2 Frontline Coordinator – Naivy：日立と日立プラントサービスが共同開発した、非熟練作業者の心理的負担を軽減し、現場業務の効率化を支援する次世代AIエージェント。

※3 リスクマネジメント高度化ソリューション：リスクアセスメントの品質向上を目的とした生成AIソリューション。

属人性から脱却へ　AIと人の共存で現場力を再構築

日立が打ち出した「現場安全高度化ソリューション」は、AIとデジタルツインを融合させた先進的な取り組みであるといえる。
最大のメリットは、安全教育とリスクマネジメントにおける属人性の排除にあるだろう。
これまで経験や勘に頼っていた現場の安全判断を、AIが標準化・可視化することで、教育の質を均一化し、事故の予防精度を向上させられる可能性がある。

一方で、デメリットや懸念点も存在する。
まず、AIエージェントの判断が現場の実情に即していない場合、過度な依存が逆にリスクを招く恐れがある。特に、緊急時の対応や予測不能な事態において、機械的な判断が柔軟性を欠く可能性は否定できない。

また、AIの判断に頼りすぎると現場の判断力が落ちる恐れもあるため、今後はAIと人間の役割分担の見直しや、現場の声を反映した運用・教育体制の整備が重要となるだろう。

日立は今後、各現場の特性に応じたAIエージェントを提供し、建設やプラント分野だけでなく、他業種への展開も加速させていく方針だ。