川崎重工は、米カリフォルニア州サンノゼにフィジカルAIの社会実装を推進する新拠点「Kawasaki Physical AI Center San Jose」を開設したと発表した。
NVIDIA、Analog Devices、Microsoft、富士通などと連携し、医療・介護およびモビリティ分野を起点にロボティクスとAIの融合ソリューション開発を進める。
川崎重工、米国にフィジカルAI開発拠点を開設
2026年5月22日、川崎重工は、米シリコンバレーに新拠点「Kawasaki Physical AI Center San Jose」を設立したと発表した。
拠点は米国子会社Kawasaki Heavy Industries (USA), Inc.の施設として、カリフォルニア州サンノゼのKawasaki Robotics Inc.建屋内に新設された。
5月21日に開催された開所式では、代表取締役社長執行役員の橋本康彦氏が、医療・介護分野を重点領域に据える方針を示した。
来院、診察、治療、手術、術後ケアまでを支援する「病院ワンストップソリューション」の構築を目指し、人間の置き換えではなく、人の判断や行動を安全かつ効率的に支援するフィジカルAIの社会実装を進める考えを表明している。
協業のテーマとしては、それぞれNVIDIAとはAIとロボティクスを融合した新ソリューション創出、Analog DevicesとはAI・音声・マニピュレーション技術を活用した汎用ロボット開発、Microsoftとはクラウド/AI基盤の活用による導入促進、富士通とはヘルスケア領域での業務システム・ロボット・AI連携、が設定されている。
背景には、フィジカルAI(※)への期待の高まりがある。製造、医療、モビリティなど現実空間で機械が自律的に判断・行動するAIには、実世界データと現場知見が不可欠とされる。
航空宇宙、造船、エネルギー、プラント、二輪車など多様な事業を展開する川崎重工は、長年蓄積した製造現場データを強みとして、研究段階を超えた事業化を狙う。
※フィジカルAI:現実空間の状況を認識し、自律的に判断したうえで、ロボットや機械を通じて物理的な行動を行うAI技術。製造、医療、物流、自動運転などへの応用が期待されている。
現場データ競争へ 製造企業のAI戦略が変化
今回の動きは、AI開発の主戦場がソフトウェア中心から「現実世界データ」を活用する段階へ移行しつつあることを示す事例とも言える。
大規模言語モデルの競争では計算資源やモデル性能が焦点だったが、フィジカルAIでは、現場環境や運用知見を持つ企業の存在感が相対的に高まりやすい。
川崎重工が持つロボット製品群や製造現場データは、AI開発企業にとって実証・学習環境として価値を持つ可能性がある。
医療・介護、モビリティ、半導体製造など複数領域へ横展開できれば、従来の機械メーカーがAIソリューション事業者へ進化する契機になることも考えられる。
一方で、社会実装には課題も残る。医療や産業現場でAIとロボットを運用するには、安全性、責任範囲、システム信頼性の確保が欠かせない。
特に医療分野では、現場定着までに規制対応や運用設計が求められ、技術力だけでは普及が進まない可能性もある。
それでも、NVIDIAやMicrosoftなど世界的テック企業との協業を拠点化した意義は小さくない。
シリコンバレー、日本、欧州拠点を結び、地域ニーズを反映した実用化を進める構想が機能すれば、フィジカルAIの競争軸は「モデル性能」から「現場適応力」へと広がっていくことになりそうだ。
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