レアアース問題が問う日本の資源戦略 AIを活用した3つのアプローチを探る

レアアース問題から考える日本の資源戦略とAI活用
日本の資源戦略にとって象徴的な動きが年明け以降、具体化し始めている。
2026年1月12日、海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」は、太平洋のレアアース埋蔵海域に向けて出港した。
小笠原諸島・南鳥島沖の深海底に広がるレアアース(希土類)泥を巡り、採掘に向けた試験が進められている。
現場レベルでの取り組みが動き出す一方、政府も資源確保に向けた対応を本格化させている。
こうした一連の動きは、レアアースを巡る環境が大きく変化しつつあることを示している。国内資源の活用や供給網の見直しが、現実的な政策課題として意識される中で、日本の資源戦略も転換点に差しかかっている。
そこで本記事では、資源探索・リサイクル・新材料開発という3つの分野から、AIを含む技術活用が日本のレアアース戦略にどのような選択肢をもたらし得るのかを解説する。
まず、その背景にあるレアアース供給を巡る不確実性と、日本政府の対応を見ていく。
レアアース供給を巡る不確実性と日本の対応
2026年1月20日、日本政府は、レアアースなど重要鉱物の新たな供給ルート開拓を後押しするため、今年度予算の予備費から390億円を支出することを閣議で決定した。
資源確保を個別企業の判断に委ねるのではなく、政府が前面に立って対応する姿勢を明確にした形だ。
この判断の背景には、レアアースを巡る国際的な供給環境の変化がある。
中国が日本向けに一部品目の輸出を制限する動きを見せるなど、供給面での不確実性は高まりつつある。
調達先の偏在や地政学リスクは以前から指摘されてきたが、近年は仮定のリスクではなく、実際の制約として意識される局面に入った。
レアアースは、半導体や電動化技術に加え、自動車部品や家電、スマートフォンといった身近な製品から、データセンターを支えるインフラ機器、フィジカルAIに代表される産業用ロボットまで幅広く用いられる素材であり、産業基盤の隅々に組み込まれている。
供給の不安定化は特定の分野にとどまらず、製造業からデジタルインフラまで、広範な産業活動に影響を及ぼしかねない。
資源輸入国である日本にとって、レアアース問題は突発的な供給不安ではなく、産業基盤の安定性に直結する構造的なテーマといえる。
調達先の多様化や国内循環の強化を進める動きは、資源政策を受動的なものから、より能動的な対応へと転換する試みでもある。
さらに2025年10月には、日米両国でレアアース分野を含む連携強化が確認され、供給網を巡る議論は国内対応にとどまらず、国際的な枠組みの中で再編が進みつつある。
こうした供給環境の変化を踏まえると、レアアースを巡る課題は、その用途の広さや資源としての特性、そして国際的な供給構造と切り離して語ることはできない。
レアアースの多くは鉱山で産出される資源だ。
ただし、特定の鉱石から分離・精製する工程が複雑で、環境負荷やコストが高くなりやすい。
そのため、採掘量そのもの以上に、どの国が精製や供給を担っているかが重要になる資源とされてきた。
レアアース生産で突出する中国の存在感
現在、レアアースの生産を巡る国際構造の中で、最も大きな存在感を持つのが中国だ。
米国地質調査所(USGS)によると、世界全体のレアアース生産量のうち、中国はおよそ7割を占めるとされ、他国を大きく引き離している。

米国やミャンマーなども生産国として位置づけられるが、その規模は中国に比べると限定的で、供給全体に与える影響力には大きな差がある。
この生産量の偏りは、単に鉱山の数や埋蔵量の問題にとどまらない。
中国は採掘に加え、分離や精製といった工程でも高い能力を持ち、レアアース供給の中核を担ってきた。
こうした構造の下では、中国の政策や輸出管理の動向が、そのまま国際市場や各国産業に影響を及ぼす状況が生まれやすい。
レアアースの生産量や精錬能力が特定国に集中する構造は、短期的には効率的な供給体制として機能してきた。
一方で、その集中度の高さは、政策判断や国際関係の変化が供給全体に直結しやすいという脆さも内包している。
日本を含む資源輸入国にとって、こうした構造は市場任せでは吸収しきれないリスクとなりつつある。
このため、レアアース問題への対応は、生産国の多様化だけで完結するものではない。
探索の精度向上やリサイクルの活用、使用量の削減や代替材料の開発など、供給構造そのものを補完・緩和する視点が重要になる。
こうした取り組みを現実の選択肢としていく上で、近年はAIを中心としたデータ解析や自動化技術の活用が注目されている。
AIを活用したレアアース問題への3つのアプローチ
レアアース問題への対応は、一つの解決策で完結するものではない。
探索、リサイクル、新材料開発といった複数の取り組みを組み合わせることで、供給構造の制約を緩和していく必要がある。
①資源探索の精度を高めるAI活用
レアアースの供給構造を変える鍵の一つが、未発見・未評価の鉱床を効率的に探索する能力である。
従来の地質探査は膨大なデータを専門家が個別に解析する必要があり、広域海域や深海域の評価には時間とコストがかかった。
とりわけ南鳥島沖のような深海底では、光学カメラの使用が困難で、主に音波探査データや地震探査データに依存する必要がある。
しかし、こうしたデータはノイズの影響を受けやすく、人間の目視だけでは有望域の高精度な特定が難しいという課題がある。
ここでAIは、データの性質に応じて最適化された解析手法を適用する基盤として機能する。
具体例として、音波探査データを機械学習モデルで処理し、地層断面の特徴を自動的に抽出・セグメント化する手法がある。
この方法ではノイズ除去と高解像度化を同時に実現することで、従来よりも短時間に「有望な堆積層」がどこに広がっているかを推定できるようになる。
また、海底地形と地球化学情報を統合した空間モデルでは、統計的なポテンシャル評価に比べ、大量データから特徴的なパターンを抽出できるAIモデルの活用が一つの選択肢として注目されている。
こうした手法は、有望域の絞り込みを効率化し、探索段階における試掘コストの抑制や、試掘対象の優先順位づけを合理化する点でも有効とされている。
②都市鉱山・リサイクル領域でのAI活用
レアアースや希少金属の安定供給を進める上で、既存の鉱山資源に頼るだけでなく、リサイクルを通じた資源循環の強化が重要な対応策として位置づけられている。
JX金属グループは、銅をはじめとする非鉄金属のリサイクル原料の集荷・前処理・製錬を一貫して行う事業を展開し、再生資源の活用によって資源循環型社会の実現を目指している。
2024年度には約10万トンの電気銅をリサイクル原料から再生し、リサイクル比率を高めている。
こうしたリサイクル事業の効率化には、AIやデジタル技術の活用が追い風となる。
廃電子機器や家電などから銅・希少金属を取り出す過程では、部材や金属片の識別・選別が必要だが、大量のスクラップを対象とする場合、画像認識やセンサー情報を用いたAIモデルによる自動分類・選別は、処理の効率化と精度向上に寄与する。
人手に依存してきた工程をデータ化・自動化することで、回収率の向上や処理コストの低減が期待されている。
さらにJX金属は、家電リサイクル法に基づく使用済み家電からのスクラップ供給をパナソニックなどと共創するスキームを通じて、リサイクル技術と管理体制の高度化を進めている。
電気銅を100%リサイクル由来として扱う仕組みは、原料トレーサビリティの向上や資源循環の定量化に寄与し、資源を無駄にせず循環させる仕組み作りにつながる。
こうした循環プロセスは、大規模なスクラップからのレアメタル回収を目指す過程でも、AIやデジタル技術との連動によって、実効性を高める余地がある。
AIが直接スクラップ処理のすべてを担うわけではないが、データを基盤とした自動化・最適化の方向性そのものが、リサイクル工程全体を進化させ、国内におけるレアアース・希少金属の供給源を底上げする役割を果たしつつある。
③AI活用で進むレアアース依存低減と新素材開発
レアアースへの依存度を下げる取り組みは、供給源の多様化だけでなく、材料そのものの設計と開発プロセスの変革においても進んでいる。
従来の材料開発では、試行錯誤を重ねながら適切な組成や特性を見つける必要があり、数年から数十年という時間がかかることが一般的だった。
こうした状況に対して、英国のディープテック企業「Materials Nexus」は、AIを活用した材料探索・設計プラットフォームを用いて、レアアース不要の永久磁石「MagNex」をわずか3か月で開発した。
これは従来の手法と比べて約200倍のスピードであり、AIが膨大な候補材料の中から高性能な組成を効率的に絞り込んだ成果だ。
MagNexの設計には1億以上の材料合金候補が分析され、コストや性能、環境負荷といった複数の条件を同時に評価したという。
製造コストは従来のレアアース磁石の約20%、炭素排出量は約70%の削減が見込まれている。
MagNexのようなレアアースフリー磁石は、電気自動車の駆動モーターや風力タービン、ロボット、ドローンなど幅広い分野での利用が想定されている。
これらの用途では、従来レアアース磁石が不可欠とされてきたが、AIを使った設計手法は材料の性能を維持しつつ依存性を低減する新たな道を示している。
このようなAI活用型の材料探索は、単に新素材を作るだけでなく、設計・評価プロセス全体の効率化にも寄与する。
従来の試行錯誤型の開発よりも迅速かつ幅広い選択肢の探索が可能であり、長期的にはレアアース依存を抑える戦略の一翼を担うことが期待されている。
レアアース問題への対応策 AI活用を手掛かりに
レアアース問題への対応は、特定の解決策に依存するものではなく、複数の取り組みを積み重ねていく性質の課題といえる。
供給源の多様化に加え、探索の高度化、リサイクルによる循環の強化、そして新素材や設計手法の見直しといった対応を並行して進めることが求められている。
これらの取り組みを支える手段として、AIの活用は、各分野で検討や実証が進み、現実的な選択肢として捉えられるようになってきた。
深海を含む資源探索では、地質データ解析の効率化に寄与し、リサイクルの現場では選別や工程管理の高度化を通じて、国内循環の実効性を高めている。
材料開発においても、設計・評価プロセスを短縮することで、レアアースへの依存度を下げる具体的な成果が示され始めている。
AIは万能な解決策ではないが、個別の対応を実行可能な水準に引き上げ、相互に連動させる基盤として機能している。
日本のレアアース対応についても、資源を「確保する」という発想に加え、「使い方」や「循環」「依存低減」といった視点を組み合わせて考える必要があるだろう。
レアアース問題への現実的な対応を積み重ねていく上で、AI活用は重要な手段の一つとして、今後も積極的に検討していくべきだと言える。
参考:
時事通信社 レアアース・AIで連携強化 造船でも協力、中国に対抗―日米両政府
TBS NEWS DIG レアアースなど供給ルートを新たに開拓へ 政府が予備費で390億円支出を閣議決定 海外で資源開発する民間企業を支援へ
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