富士通、AIで壱岐市の病院経営を改革 病床稼働率改善と返戻金削減へ

2025年10月28日、富士通株式会社は長崎県壱岐市の社会医療法人玄州会と連携し、AIを活用した病院経営支援プロジェクトの報告をした。病床稼働率の最適化と診療報酬返戻の削減により、年間約10%の収入増が見込めると試算している。
AIが病院経営を可視化 診療報酬返戻を削減し収益性を改善
富士通は2025年7月から9月にかけて、壱岐市の地域医療を担う玄州会と共同でAIを用いた病院経営支援の実証を行った。
導入されたのは、同社のデータ統合基盤「Fujitsu Data Intelligence PaaS」。電子カルテやレセプト(診療報酬明細)など、組織内外に散在していた医療データを一元化し、収益構造や業務負荷の「見える化」を実現した。
玄州会が運営する光武内科循環器科病院は88床を有し、在宅ケアを含む16事業所を展開している。しかし全国の病院の約7割が赤字とされる中、同院においても複雑な施設基準への対応や返戻金(※)の発生が経営を圧迫していた。
AIによる施設基準コントロール機能を導入した結果、未達リスクを事前に検知し、返戻金を約10%削減できる見込みとなった。
さらに、数理最適化モデルを活用した「ベッドコントロール」により、患者の重症度や設備条件を考慮した最適な入院割り当てを実現。病床稼働率を従来の70%から90%へ向上させることで、月間収入の約10%増加を見込む。
また、富士通は10月28日、壱岐市と「エンゲージメントパートナー協定」を締結。地域課題解決にAIを活用する官民連携モデルとして、同市全体での医療DX推進にも貢献する構えを示した。
今後は、玄州会グループ内の施設全体にソリューションを拡大し、介護・在宅サービスを含めたデータ連携を深化させる方針だ。さらに2026年内には、国内の他地域の医療機関への展開も目指している。
※返戻金:診療報酬請求における基準未達や記録不備などにより、支払いが差し戻される金額。医療機関の経営に大きな影響を与える要因の一つ。
AI活用で地方医療の持続性を強化 全国展開も視野に
AIによる病院経営支援は、地方医療における人手不足や財政難を補う現実的な解決策となりつつある。
診療報酬制度の変化に即応できるデータ分析体制を整え、経営の透明性を高める点は大きなメリットである。医療従事者が事務処理に費やす時間を削減し、患者と向き合う本来の業務に専念できるようになる効果も期待される。
一方で、AIモデルの精度やデータの正確性に依存するリスクも見逃せない。誤った判断ロジックや入力不備が経営判断を誤らせる恐れがあるため、現場とAIの協働体制を維持することが不可欠だろう。
また、個人医療情報を扱う特性上、データセキュリティの確保も喫緊の課題となる。
富士通が短期間でこれらの成果を上げたことは、地方医療経営のモデルケースとなりそうだ。富士通と壱岐市の成果が他地域で再現できるかが次の焦点と言える。
今後、AIが医療経営の「共創者」として機能する体制が整えば、日本の地域医療の未来像を塗り替える一大変革となるだろう。
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