エヌビディア、TSMC米国工場製AI半導体で初のウエハー公開

2025年10月17日、米半導体大手エヌビディアはAI用最先端半導体「ブラックウェル」で、初の米国産ウエハーを公開した。製造は台湾積体電路製造(TSMC)のアリゾナ州フェニックス新工場が担い、AIサプライチェーンの米国回帰を象徴する動きとなった。
TSMCアリゾナ工場でブラックウェル製造 AI供給網の米国回帰が加速
エヌビディアは17日、AI向け次世代半導体「ブラックウェル」で使用する初の米国産ウエハー(※)を披露した。製造を手掛けたのは、半導体受託生産で世界最大手のTSMCがアリゾナ州フェニックスに建設した新工場である。同工場では、線幅2ナノ(ナノは10億分の1メートル)、3ナノ、4ナノなどの先端プロセスを採用し、AI、高性能コンピューティング(HPC)、通信分野などに向けた生産が本格化する。
同社は、「米国のサプライチェーンを強化し、AI時代のリーダーシップを確実にするAI技術を国内に呼び込む」と強調した。トランプ米大統領が掲げる製造業再興の方針と歩調を合わせる形で、AIインフラの中核部品を国内生産に移すことで国家戦略との一体性を示した格好だ。
TSMCは16日に発表した2025年第3・四半期決算で、過去最高を更新したと明らかにした。AI半導体の需要急増により、25年通期の売上予想も上方修正している。こうした動きを受け、エヌビディア、AMD、ブロードコムなどAI関連企業がデータセンターの拡張契約を次々と結んでおり、AI時代の供給網再編が加速している。
※ウエハー:半導体チップの基板となるシリコン円板。ここに回路を形成し、切り出して個々の半導体として使用する。
製造回帰の光と影 コスト・人材・地政学リスクのはざまで
エヌビディアの米国生産シフトは、AIサプライチェーンの安全保障を強化する上で重要な一歩とみなされている。
台湾海峡をめぐる地政学リスクが高まるなか、先端製造を米国内に確保することは、安定供給と国家安全保障の両立を意識した戦略的判断といえる。
さらに、TSMCアリゾナ工場の稼働は、米国政府の半導体支援策「CHIPS and Science Act」が実効性を発揮し始めていることを示す象徴的な動きと受け止められている。
一方で、国内生産にはコストと人材の課題が残る。
米国での製造コストは台湾や韓国より3~5割高いとされ、熟練エンジニアの確保も依然として難しい。先端製造のノウハウを維持しながら量産体制を安定させるには、一定の時間を要するとみられる。
とはいえ、アリゾナ工場の稼働が軌道に乗れば、AI半導体の供給多様化が進み、米国内のイノベーション拠点形成にもつながる可能性がある。
産業アナリストの間では、「短期的にはコスト高だが、長期的には国家競争力を高める投資」との見方が広がっている。
AIインフラを支える基盤を自国で生産できることは、米国がAI覇権を維持する上で重要な要素の一つとされる。
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