AIが中学校の部活コーチに 宇都宮市が実証事業で指導者不足解消を探る

2025年10月12日、栃木県宇都宮市の豊郷中と古里中で、AIを活用した部活動支援の実証事業が始まった。ソフトバンク開発の「AIスマートコーチ(※)」が剣道部で導入され、生徒が自分のフォームをAIとともに分析する。深刻化する指導者不足に対し、テクノロジーで補う新たな教育モデルの検証が進む。
AIが剣道部の“コーチ”に フォーム比較で自主学習を支援
宇都宮市が導入した「AIスマートコーチ」は、AIがトップアスリートの動きを解析し、生徒のフォームと比較できるアプリである。ソフトバンクが開発し、現在19種目に対応している。
今回の実証は、産学官連携の枠組み「みやSOIP(スポーツ・オープン・イノベーション・プラットフォーム)」の一環として実施された。豊郷中で行われた初回では、両校の剣道部員約20人が参加。生徒は自らの素振りを撮影し、筑波大学の選手の動作と並べて分析した。AIが検出する肘の角度や足さばきの差異を確認しながら、課題を自分で発見するプロセスが重視されたという。
参加した生徒からは「先生がいないときも練習を振り返れる」「未来の部活のようだ」といった声が上がった。アプリには遠隔メッセージ機能も備わっており、外部指導者によるオンライン助言も可能である。市は2026年1月まで実証を継続し、学習効果や指導環境への影響を検証する方針だ。
※AIスマートコーチ:ソフトバンクが開発したスポーツ指導支援アプリ。AIがフォームを動画解析し、トップ選手の動作と比較。遠隔メッセージによる指導にも対応。
AIが変える部活動の形 自主性育成と技術偏重のリスク
AIコーチ導入の主な利点として、指導者不足の緩和や生徒の自律的な学びの促進が挙げられる。動画比較と骨格解析により、指導者が不在の状況でも客観的なデータをもとに改善点を把握しやすくなるとみられる。特に地方の中学校では指導人材の確保が難しく、AIが「第二のコーチ」として機能することで練習機会の平準化につながる可能性がある。
また、AIがフォーム分析を担うことで、教師は技術以外の教育、たとえばチームビルディングやメンタルケアなどにより多くの時間を割けるようになると期待される。こうした分業が、教育現場全体の効率化を後押しする可能性もある。
一方で、AIへの依存が進みすぎれば、競技の本質である「感覚」や「創造的判断」が育ちにくくなる懸念も指摘されている。データは上達の一助となるが、動作の背景にある思考や心構えまでは読み取れないためだ。技術の精密化が進むほど、人間による「教え」の意味や価値をどう再定義するかが課題となるだろう。
今後は、AIと人の指導が補完し合う教育体系のあり方が焦点となる。実証の成果がどのように生徒の学びに反映されるかは、全国の教育現場にも示唆を与える可能性がある。











