金融庁、暗号資産課税の分離課税導入とETF組成検討を正式要望

金融庁は2025年8月29日、暗号資産取引の課税見直しやETF組成の検討を含む「令和8年度税制改正要望」を公開した。国内投資家に影響する重要な税制動向として注目される。
暗号資産取引、総合課税から分離課税へ見直し要望
金融庁は「令和8年度税制改正要望」において、暗号資産取引に係る課税の見直しを明確に掲げた。現状、暗号資産取引から生じる所得は総合課税の対象であり、株式や債券など有価証券の分離課税(※)とは異なる扱いとなっている。
今回の要望では「必要な法整備と併せて分離課税導入を含めた課税制度の見直しを行うこと」が明記された。国内外の個人・機関投資家による暗号資産投資の拡大を背景に、金融庁は税制の不透明さが市場参加や資金流入の阻害になり得ると判断した。
また、暗号資産ETF(上場投資信託)の組成を可能とするため、税制面を含めた検討も要望に含まれた。これは、諸外国でのETF活用事例を踏まえ、日本でも投資商品の多様化と市場活性化を図る狙いがある。
この動きに先立ち、7月には日本暗号資産取引業協会(JVCEA)と日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)が共同要望書を提出していた。
要望書では、申告分離課税や評価基準の明確化、交換取引の課税タイミング見直しなど具体的な提案が示されており、金融庁の方針と重なる部分が多い。
※分離課税:株式や債券など特定の所得について、給与所得など他の所得と合算せず独立して税率を適用する課税方式。
分離課税とETF拡大による市場波及効果
分離課税の導入は、投資家にとって税負担の予測可能性を高める効果があると考えられる。
現行制度では総合課税で高額所得者の税率が上昇し、短期売買意欲を抑制していたが、分離課税導入により手元資金が増え、再投資や長期運用の選択肢が広がる見込みである。
また、ETFの組成は機関投資家の参入障壁を下げ、信託形式による保管はリスク管理上の優位性があるため、長期資金の流入を呼び込みやすいと予測できる。
市場規模の拡大は取引所や関連ビジネスにも波及するだろう。
一方で、税制優遇により短期投機が加速し、市場のボラティリティが一層高まる懸念がある。ETFが普及することで、伝統的な金融市場と暗号資産市場の連動性が強まり、システミックリスクの拡大につながる可能性も否定できない。
将来的には、税制整備と金融商品拡充が連動することで、日本の暗号資産市場は成熟に向けた一歩を踏み出すと考えられる。
ただし、諸外国の動向や規制変更に迅速に対応できる体制の整備も合わせて行うことが不可欠となるだろう。金融庁の今後の具体的な施策が、市場の成長スピードを左右することになりそうだ。