ソフトバンク、Transformer活用で5G通信速度を最大30％改善

2025年8月21日、ソフトバンクは高性能AI「Transformer」を活用した新AIアーキテクチャを開発し、5G無線アクセスネットワークの性能を従来比で約30％向上させたと発表した。
国内の通信環境を対象とした実証実験で、低遅延かつ高精度な信号処理の可能性が示された。

Transformer採用でAI-RANが5G速度を大幅向上

ソフトバンクは、従来のCNN（畳み込みニューラルネットワーク）を超える性能を持つTransformerをAI-RAN（※）に導入し、5G通信環境で実証実験を行った。
実験では、上りスループットを従来方式比で約30％改善し、平均処理時間も1ms以下の要件に対し338µsと大幅な低遅延を達成している。

下りスループットも改善され、従来のMLP（多層パーセプトロン）による研究では時速80kmの移動端末で13％向上に留まったのに対し、Transformer導入により29％改善と、体感速度向上への期待が高まる。

新アーキテクチャは自己注意機構（Self-Attention）により、広範囲の周波数や時間の相関を同時に解析でき、複雑な電波環境でも高精度処理が可能となる。
また、信号振幅を保持する独自設計により推定精度が向上し、チャネル補間やSRS予測、信号復調など多様なタスクに柔軟に対応できる点も大きな特徴である。

この成果は、5G-Advancedや将来の6Gに向けた通信性能向上の土台となり、GPU上でAIを制御することでソフトウェア更新による性能改善も可能となる点が注目されている。

※AI-RAN（Artificial Intelligence for Radio Access Network）：無線アクセスネットワークにAIを組み込み、通信品質や速度を自動最適化する技術。

AI-RAN高度化が拓く5G・6Gの実用性と課題

TransformerによるAI-RANの進化は、ユーザー体感速度の向上や通信品質の安定化といったメリットを提供する。特に低遅延処理と高速スループットの両立は、リアルタイム通信や自動運転、クラウドゲームなど新規サービスの普及を後押しすると考えられる。

一方で、高性能AIモデルをGPU上で動作させるための運用コストやエネルギー消費は課題となりうる。また、AIの挙動に依存する通信制御は予期せぬネットワーク障害リスクも孕む。

さらに、AI-RANのソフトウェア更新により性能改善が見込めるものの、既存設備との互換性やアップデートのタイミング調整といった運用上の課題も残るだろう。

将来的には、AI-RANの普及が5G-Advancedや6G時代の通信インフラ設計に不可欠な要素になると予測される。ユーザー体験向上と運用効率化の両立を目指し、国内外の通信事業者による実用化競争が加速する見込みである。