中国政府、人民元連動ステーブルコイン発行を検討 国際利用拡大へ布石か

2025年8月20日、ロイター通信は、中国政府が人民元連動のステーブルコイン発行を検討していると報じた。
国務院が人民元国際化を目的に制度案を審議中で、承認されれば香港・上海を起点に展開される見通しだ。
上海・香港が拠点、中国版ステーブルコイン始動か
ロイターによると、中国政府は人民元の国際利用拡大を目的に、ステーブルコイン(※1)導入を模索している。国務院は今月、制度設計案を審議し、承認される可能性が高いという。
この案には、オフショア人民元利用の目標やリスク管理指針、規制当局間の責任分担が含まれている。
フィナンシャル・タイムズの報道では、当局は過去2か月間に専門家を招集し、「中国のステーブルコイン・プロジェクトは国情に適合する必要がある」との方針を議論したとされる。
関係筋によれば、上海と香港が実装の中心拠点となる見通しである。北京は8月31日から9月1日の上海協力機構サミットでこの問題を議題に取り上げ、地域貿易における人民元利用拡大を目指す可能性があるという。
背景には香港での制度整備がある。
香港金融管理局は来年から少数のステーブルコイン発行ライセンスを交付予定で、初期段階では国有4大銀行のうち1行のみが認可を受ける見通しである。資金洗浄や投機リスクに対応するため、審査基準は厳格に設定されている。
中国人民銀行の潘功勝総裁は6月、ステーブルコインが「従来の決済システムを根本的に変革した」と評価している。
ドル連動型が国際市場を支配する現状に対し、人民元版は低コストで24時間稼働する国際決済手段となり、貿易効率化を促す可能性がある。
※1 ステーブルコイン:法定通貨や資産に連動することで価格変動を抑えた暗号資産の一種。米ドル連動型の「USDT」や「USDC」が国際市場で広く利用されている。
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人民元版導入の展望 決済効率化か資本流出懸念か
人民元連動型ステーブルコインが実現すれば、中国の金融戦略は新たな局面に入る。
オフショア人民元(※2)市場では香港が取引の41%を占め、英国22%、シンガポール16%、米国11%が続く。国際的な利用基盤が整う中で、デジタル人民元とは異なる「国際決済特化の人民元建て通貨」として位置づけられる可能性がある。
利点は貿易決済の効率化にある。
24時間リアルタイムでの取引が可能となれば、アジアや新興国との取引でドル依存を減らし、企業のコスト削減に直結する。また、中国国有企業を中心にステーブルコイン活用への関心が高まっており、実務面での需要は確実に存在すると言える。
一方でリスクも大きい。
国際送金が容易になれば、資本規制を回避した資金流出が発生する懸念がある。さらに、人民元ステーブルコインが実用化された場合、ドル連動型を軸とする既存市場との競合も避けられない。規制当局は厳格な管理で市場の安定を確保する一方、過度な規制は成長を阻害しかねない。
今後の焦点は、中国が人民元版ステーブルコインを国際金融インフラとして位置づけるか、それとも限定的なパイロット運用に留めるかという点にある。
金融主権の強化と資本規制の維持という相反する課題をどう調整するかによって、人民元の国際化が進むのか、それとも限定的な試みで終わるのかが決まるだろう。
※2 オフショア人民元:中国本土以外(香港・ロンドン・シンガポールなど)で取引される人民元を指す。資本規制のあるオンショア市場と異なり、為替や金融商品の取引が自由度高く行える国際流通用の人民元である。