中国国営メディア、エヌビディア製AI半導体「H20」を安全保障上の脅威と指摘

2025年8月10日、中国国営メディアが米エヌビディアのAI半導体「H20」について、安全保障上の懸念をSNSで表明した。背景には米中間の輸出規制やセキュリティー論争があり、両国の技術摩擦が再燃している。
中国メディア、H20に安全性や環境面での欠陥を主張
中国国営中央テレビ(CCTV)系インターネットメディア「玉淵譚天」は、交流アプリ微信で、米エヌビディア製AI半導体「H20」について、中国にとって安全保障上の懸念があると投稿した。
同記事は、H20が先進性に欠け、環境負荷も高いと指摘し、消費者は購入を控えるべきだと訴えている。
中国国家インターネット情報弁公室(CAC)は7月末、H20に不正アクセスを可能にする「バックドア(※)」のリスクが存在するかを確認するため、エヌビディアに説明を求めていた。
同社はこれを否定したが、玉淵譚天は同半導体がハードウェアのバックドアを介し遠隔シャットダウンなどの操作が可能だと主張している。
エヌビディアはこれらの指摘に対し、自社半導体にバックドアは存在しないと再び明言した。
なお、8月1日には人民日報が、エヌビディアが中国市場の信頼を回復するためには「説得力ある証明が必要」と論評している。中国政府系メディアの警戒姿勢は高まっているようだ。
H20は米国が2023年末に高度AI半導体の輸出制限を導入した後、中国向けに開発された製品である。トランプ政権は2025年4月に販売を禁止したが、7月には販売再開が認められるなど、政治的な駆け引きの対象にもなってきた。
※バックドア:ソフトウエアやハードウエアに組み込まれた、通常の認証手続きを経ずにアクセスできる仕組みのこと。悪用されれば情報漏洩や遠隔操作の危険がある。
中国市場での信頼回復は容易でないエヌビディアの課題
今回の批判は、中国市場におけるエヌビディアの事業戦略に影響を与える可能性がある。
中国はAI半導体の最大級の需要国であるため、同市場での評価低下は販売や提携関係に直結する。特に、安全性や環境負荷といった要素は、国家戦略や調達方針に反映されやすいと考えられる。
もしエヌビディアがこうした疑念を払拭できれば、中国企業や政府機関からの信頼を再構築できるかもしれない。透明性を高め、第三者による検証や証明を提示することは、ブランド価値の向上にもつながるだろう。
一方で、セキュリティー懸念が払拭されないままでは、競合他社や国内メーカーが優位に立つ可能性が高まる。AI半導体分野では性能や価格だけでなく、供給国との政治的関係が意思決定に強く影響するためだ。
今後の焦点は、中国側がどの程度強硬な姿勢を取り続けるか、そしてエヌビディアがその対応策としてどのような証明や改良を提示できるかにある。米中の技術摩擦が長期化すれば、H20だけでなく、他製品にも販売リスクが波及する展開も想定される。