NTTが問い合わせ判断をAIで見える化、新人も熟練者並み対応を実現へ

NTT株式会社は2025年8月1日、問い合わせ対応における熟練者の判断プロセスを約9割の精度で可視化するAI技術を開発したと発表した。背景には、熟練者が問い合わせ対応で暗黙裡に行う細かな判断を明文化し、共有したいという狙いがある。
NTT、LLM活用で問い合わせ対応の判断プロセスを高精度見える化
NTTは、大規模言語モデル(LLM※)を用いてセキュリティ事故対応やコールセンターの問い合わせ履歴を分析し、熟練者の暗黙的な判断プロセスを約90%の精度で見える化するAI技術を開発した。
研究は、NTT社会情報研究所の山中友貴氏が率いる社会イノベーション研究プロジェクトで進められている。
技術の核は、問い合わせ履歴から質問や提案を抽出してID付与し、意味が重なるものを統合することにある。次に構造化されたフローをもとに、頻出の遷移を統計的に抽出し、ツリー状のフローチャートに変換する。この方法により、解釈性が高く修正も容易な判断モデルを実現した。
実証実験では、公開データセット「FloDial」を用いて正解フローチャートの問い合わせフローを平均91.8%再現できることを確認した。
山中氏は、今後は実際の問い合わせ履歴での運用を目指し、情報欠落や会話の飛躍がある場合でも精度を保つ技術開発を続ける方針を示している。さらに、抽出した判断プロセスをAIに取り込むことで自動応答の品質向上と効率化を図る計画だ。
2025年度中の実用化を視野に入れており、次年度以降にシステム実装を進めていく見通しである。
※LLM(大規模言語モデル):大量のテキストデータから言語のパターンを学習し、人間のように自然な文章生成や解析を可能にするAI技術。
判断プロセス見える化の可能性と課題、今後のAI応用展望
このAI技術は問い合わせ対応の標準化と新人教育の効率化を大きく促進すると考えられる。
フローチャートによる判断プロセスの可視化は、属人的な対応を減らし、対応品質の均質化に寄与する。特に複雑な問い合わせにも一貫した対応が可能になり、顧客満足度向上が期待できる。
一方で、実際の業務データには情報欠落や予想外の問い合わせも多いため、現場での適用には精度向上と継続的なモデル更新が不可欠である。AIの判断根拠が明確でなければ信頼性の担保が難しく、完全な自動化には慎重な検証も求められるだろう。
将来的には、この技術を応用し、他の業務領域や多言語対応にも拡張される可能性がある。AIによる判断支援が進むことで、人的リソースの最適化と高度な業務支援が実現し、企業全体の競争力強化につながると考えられる。
ただし、AIの導入に伴う運用コストや倫理的な課題にも注意が必要だ。
技術の発展に合わせ、AIと人間が協調して最適な判断を導く体制を構築することが、今後は必要となるだろう。