NHK中国語ラジオ放送、AIで問題再発防止へ 人為ミス防止と契約体制の透明化進める

2025年7月30日、NHKは中国語ニュース放送における不適切発言問題を受けた再発防止策の進捗を公表した。
今年度からAI音声による読み上げを全面導入し、外部スタッフとの契約体制も見直すなど、管理強化を進めている。
AI音声導入で放送精度を向上 外部契約も国際放送局が直轄管理へ
NHKは昨年8月、中国語ラジオニュースで中国籍の外部スタッフが尖閣諸島について「中国の領土」と述べるなど、原稿にない発言を行った問題を受け、今年度から再発防止策を本格的に運用している。
7月30日の定例会見では、進捗としてAI音声の導入や契約体制の見直しが明らかにされた。
具体的には、これまで「NHKグローバルメディアサービス」を通して行っていた外部スタッフの契約業務を、2025年11月以降は国際放送局が直接担当する方式に変更する。これにより契約・監督責任の所在を明確化し、不適切な人材の起用リスクを抑える狙いがある。
また、今年度から中国語ニュースをすべてAI音声で読み上げる形式に切り替え、収録内容を事前に精査した上で放送していると発表。対象は英語を除く16言語に及び、朝鮮語も段階的にAI化が進んでいる。
問題が発生した昨年の放送以降、NHKは役員報酬の返納や理事の辞任を通じて責任を明確化。総務省からは行政指導を受けていた。
一方、NHKは問題を起こした元スタッフに対し、1100万円の損害賠償を求めて東京地裁に民事訴訟を起こしており、判決は2025年9月に予定されている。刑事告訴については今後の民事結果を踏まえて判断するとしている。スタッフはすでに日本を出国しており、現在も連絡は取れていないという。
AI化が進める放送の信頼性向上 「日本の視座」発信に求められる一貫性
AI音声による読み上げの全面導入は、報道の正確性と信頼性を担保する手段として今後さらに普及が進むと見られる。
人為的な誤読や意図的な情報改変のリスクを排除できる点は、国際放送におけるメリットが大きい。特に地政学的に敏感なテーマを扱う国際ニュースでは、一言の表現が外交問題に発展するおそれがあるため、精密なコントロールが求められる。
AI音声の使用により、内容確認のプロセスが明確化され、コンテンツ責任の所在もより明らかになる。また、契約体制の透明化と直轄管理によって、外部スタッフ任せにしていた運用構造を再構築できる点も評価できる。
一方で、AI音声には現時点で限界もある。
抑揚や言外のニュアンス表現が不足し、聞き手に違和感を与える可能性があるため、AI技術そのものの精度向上も不可欠となる。NHKが進める多言語AI化は国際放送における試金石であり、他国の国営放送機関のモデルケースとなる可能性もある。
稲葉会長は同日の会見で「同じような事案が再発することはおよそ考えられない状況になったことを今月の経営委員会で報告した」と説明し、AI活用による改革姿勢を強調した。
今後、NHKが「日本の視座」を的確かつ安定的に発信できるかが、放送機関としての信頼回復の鍵を握るだろう。