キヤノン、宇都宮で半導体装置の新棟稼働へ 生成AI需要追い風に生産体制強化を狙う

2025年7月30日、キヤノンが宇都宮光学機器事業所で半導体製造装置の新棟完成式典を開催した。新棟は9月に操業を開始し、2027年までにフル稼働を目指す方針だ。
生成AI用途の拡大を背景に、露光装置の生産拠点を新設
キヤノンは、生成AIや高性能演算向け半導体の需要増加に対応するため、宇都宮光学機器事業所に新たな生産棟を設けた。新棟では露光装置(※)の組み立てとレンズ製造を手がけ、9月から稼働を開始する予定となっている。
同社は宇都宮市と茨城県阿見町を中心に、シリコンウエハーに電子回路を焼き付ける露光装置を製造してきた。今回の新棟により、既存設備との役割分担が明確化され、生産効率の最適化が図られる見通しだ。
露光装置の需要は、生成AIやデータセンターなどの分野で急拡大しており、キヤノンは2024年に233台を出荷し、世界シェア2位を記録した。新棟の稼働は、こうした需要に迅速に応えるための重要な布石と位置付けられる。
完成式典に出席した御手洗冨士夫会長は、「半導体分野は今後の成長をけん引する。経営戦略の大転換を象徴する」と語った。
※露光装置:半導体製造工程で、光を使って回路パターンをシリコンウエハー上に転写する装置。微細化と高密度化を左右する要の技術。
国内製造強化に広がる波及効果、集中投資には慎重さも
今回の新棟稼働は、サプライチェーンの見直しが進む中で、国内回帰の動きを象徴する施策と受け止められる。海外依存を抑え、納期短縮や柔軟な対応力を高めることで、顧客からの信頼性を向上させる狙いがあるとみられる。
露光装置のような高精度機器では、技術者と製造現場の連携が不可欠となる。宇都宮での生産体制は、開発スピードの向上や品質維持といった観点からも、戦略的な意味合いを持つ。
ただし、生産機能の国内集中は自然災害やコスト変動などのリスクも伴う。特に、2027年のフル稼働段階では、需給ギャップや外的要因への対応力が問われる可能性が高い。
一方、地元への経済的波及にも期待がかかる。雇用拡大や関連産業の集積が進めば、宇都宮は日本における半導体製造装置の戦略拠点として一層の存在感を持つようになるだろう。