英国、押収ビットコイン1兆円相当の売却検討か 財政赤字補填の可能性も

2025年7月19日、英紙テレグラフは、英内務省が犯罪捜査で押収した少なくとも50億ポンド(約9,950億円)相当のビットコインを売却する方向で検討を進めていると報じた。
売却益は財政赤字の補填に充てられる可能性もあるという。
英政府、押収ビットコインの売却に向けて準備開始
英紙テレグラフの報道によれば、英国の内務省は、警察が押収した暗号資産のうち、少なくとも50億ポンド(約9,950億円)相当のビットコインを売却する計画を進めているという。
これに伴い、政府はビットコインなどの暗号資産を保管するためのカストディ(※)システムの整備にも着手する見通しである。
同国では、法執行機関によって暗号資産の取引や押収が行われており、財務省もこの動きを注視しているとされる。報道によると、レイチェル・リーブス財務大臣が売却益を英国の財政赤字補填に充てる可能性があるとの見方も示された。
押収資産の内訳は公表されていないが、2018年の捜査において中国人詐欺師のポンジスキームに関連する6万1,000BTCが差し押さえられており、これは現在の価値で54億ポンド(約1.7兆円)に相当する。
ただし、この詐欺事件の被害者が返還を求めていることから、当該ビットコインを政府が合法的に売却できるかについては確定していない。
なお、暗号資産関連団体であるCryptoUKは、政府の売却方針が業界の健全な発展を損なう可能性があるとして、計画の再考を求めていると報じられている。
※カストディ:顧客資産を安全に保管・管理する仕組みやサービス。暗号資産では秘密鍵の管理が重要となる。
財政再建と業界育成、相反する課題に直面する英政府
英国政府によるビットコイン売却の動きは、短期的な財政補填には寄与する一方で、国内のWeb3産業や暗号資産業界との利害衝突を引き起こす懸念がある。
財務赤字への対処は喫緊の課題であるが、暗号資産という新興分野を軽視すれば、将来的な産業競争力の低下を招きかねない。
特にCryptoUKが主張するように、国家がビットコインを保有し続けるという戦略は、他国の準備金政策とも整合的であり、中長期的には経済的セーフティネットとしての機能も期待されている。こうした観点からも、拙速な現金化は慎重に検討されるべきだろう。
また、詐欺事件における押収資産の法的処理が未決のまま売却が進めば、政府の信頼性や被害者保護の観点でも批判が高まる可能性がある。ビットコインは技術的に匿名性が高く、資産の出所や帰属を巡る問題も多いため、売却の正当性を明確にすることが不可欠だ。今後、政府が透明性を確保しながら、財政とイノベーション支援の両立をどのように図るかが焦点となる。
英国にとってこの判断は、単なる資産売却にとどまらず、国家としての暗号資産政策の方向性を示す試金石となるだろう。