AppleがEU制裁を上訴 App Store運営への過度な介入に「混乱と不利益」訴え

2025年7月7日、米Appleは、欧州委員会が4月23日に「デジタル市場法(DMA)」に基づいて下した制裁措置に対し、正式に上訴したと発表した。
App Storeの運営に対する規制が過度であり、開発者やユーザーに不利益を与えると主張している。対応は欧州市場に限定される。
Apple、EUの制裁措置に対し正式に上訴 DMA違反認定で5億ユーロの制裁金
Appleは7月7日、欧州委員会が「デジタル市場法」に基づき同社に課した制裁措置に対して上訴したと明らかにした。
措置は2025年4月23日に下されたもので、同社のApp Store運営がDMAで定められた「反誘導義務(※1)」に違反すると判断されたことが背景にある。
欧州委員会は、Appleがアプリ開発者に対して「App Store」以外の配信手段を使う際に複数の制限を設けていた点や、代替手段をユーザーに直接案内できない仕組みがある点を問題視。
その結果、ユーザーが他の選択肢を認識できず、恩恵を受けられない状況を生んでいたと指摘した。
委員会はこうした制限が正当な理由に基づくものであるとするApple側の説明について「不十分」と結論付け、5億ユーロの制裁金を科した。Appleはこれに従わなければ、日々の懲罰的制裁金(※2)の支払い対象となる可能性がある。
今回の上訴にあたり、Appleは公式声明を通じて、欧州委員会がApp Storeの運営方針に過度に介入しており、「開発者に混乱を招き、ユーザーにも不利益を与える」と主張。裁判を通して事実関係を明らかにする姿勢を示している。
なお、同日に欧州委員会はMetaに対してもDMA違反を理由に2億ユーロの制裁金を課しているが、こちらは広告利用におけるデータ収集方針が対象となっており、Appleとは異なる違反内容である。
※1 反誘導義務:アプリ開発者が自社サービスや外部決済手段などをユーザーに案内する行為を妨げてはならないというDMA上の規定。
※2 懲罰的制裁金:制裁対象企業が決定に従わない場合、日次で課される追加的な罰金。
上訴で問われる規制の正当性 市場競争と企業の運営方針の自由度をめぐって
Appleの上訴は、EUにおけるプラットフォーム規制と事業運営の自由度の境界を問い直す動きといえる。
特に焦点となっているのは、開発者による「ステアリング・オプション(※3)」の範囲をどう定義するかという点である。
Appleは、EU加盟国内においてすでに外部リンクや外部決済の案内を可能とする手段を導入しているが、欧州委員会はその内容が十分でないと判断。競合するアプリストアや外部アプリへのリンク表示まで義務化するよう求めている。
この対応が進めば、ユーザーにとっては選択肢が増えるメリットがある一方で、Appleにとっては収益モデルの変更やセキュリティ管理上の懸念が生じる。
検索機能や発見機能といった付随サービスの切り離しも求められており、事業運営の柔軟性を損なう可能性がある。
今後の裁判では、欧州委員会の要求が競争促進とユーザー保護に資する「必要かつ相応の措置」であるかどうかが問われる。
Appleのような巨大プラットフォームにとって、規制の正当性を争う機会は今後のDMA運用における重要な前例となりうる。
※3 ステアリング・オプション:アプリ内でユーザーに対して他の支払い手段や配信経路を提示できる仕組みのこと。DMAにおいて義務化されている。
関連記事:https://plus-web3.com/media/applemetaseisaikinkouheisei20250424/