トランプ政権担当者、中国とのAI競争に危機感 「規制緩和なくして勝利なし」と警鐘

2025年6月10日、米ワシントンで開かれたアマゾン主催のイベントにて、トランプ政権でAI政策を担当するデービッド・サックス氏が講演を行い、中国とのAI開発競争における差は「わずか3〜6か月」との見解を示した。
サックス氏は、競争力維持のために米国政府は規制緩和とインフラ投資を急ぐべきだと訴えた。
中国との差は「数か月」 AI競争で米国の足かせは“規制”
サックス氏は、米国と中国のAI技術の差は「3〜6か月程度」と分析し、既に両国はほぼ同一線上にあると危機感を示した。
AI分野の覇権争いは国家の安全保障に直結しており、「もし米国がAI競争で後れをとれば、軍事分野にも深刻な影響が及ぶ」とも語った。
中国では国家主導でAIと軍事の統合が進められているが、米国では州レベルでの規制強化が加速しており、これが競争の足かせになる恐れがあると指摘。
特に、規制強化が中国製AIの世界的普及を後押しする構図を懸念している。
また、AI運用に不可欠なインフラについても言及。
サックス氏は「米国は最も多くのコンピューターを持つ必要がある。そのために発電量も増やさなければならない」と述べ、データセンター整備や電力供給の制約を緩和する政策の必要性を強調した。
サックス氏の主張は、単なる開発競争ではなく、安全保障をめぐる包括的な戦略の一環としてのAI政策を求めるものだ。
特に軍事面では、AIによる兵器性能の飛躍的向上が見込まれるため、開発の遅れは抑止力の低下につながると強調した。
「自由な開発環境」が米国優位の鍵 軍事と産業の両立を急ぐ
トランプ政権は、AIの規制を進めていたバイデン政権とは対照的に、規制緩和を推し進めている。
たとえば、本年の2月11日にパリで開かれたAIサミットでは、各国がAIを「オープンで、包括的、透明、倫理的、安全かつ信頼できる」ものとする「国際AI宣言」が示され、日本を含む多くの国が署名した。
しかし、米ヴァンス副大統領は、規制強化への産業への懸念を理由に、英国とともに署名を見送っている。
現政権が国際的な場面においても規制緩和を重視する表れといえる出来事であった。
規制緩和はアメリカのAI開発を一層加速させる可能性がある一方で、倫理・人権・監視社会化といった問題とのバランスを問われるリスクも孕む。
AIの透明性や倫理面に関する懸念が国際的に共有されている中、米国内での規制強化にも一定の支持が存在している状況だ。
それでもサックス氏は、「米国はAI半導体の製造能力を国内で保持すべきだ」と繰り返し訴えている。
外部依存を減らし、産業基盤と軍事技術の両面で自立性を高めることが、中国との長期的競争での優位性確保に不可欠だという立場である。
今やAIは、政治的な競争という文脈においても、重要なファクターとして認識されている。
規制は緩和に向かう可能性が高いと思われるが、もともとあった制限がなくなることで、将来どのようにAIが社会に影響を与えるようになるのか、正確に予測することは難しいだろう。
規制緩和の影響を、国際社会は慎重に見極める必要がある。