2026年10月20日、日本取引所グループ(JPX)と日立製作所が、国内金融市場の取引システムにおける運用監視業務への生成AIの本格適用を発表した。日立の「JP1 Cloud Service(※)」を活用し、アラート発生時の対処判断における属人化の解消と生産性の向上をめざす国内の先進的な取り組みである。
取引システム監視の判断精度97%以上を達成したAI本格適用の全貌
JPXが運営する国内金融市場の取引システムは、株式やデリバティブ商品などの取引を担う重要な社会インフラである。これらのシステムは24時間365日体制で監視されており、障害発生時には迅速かつ的確な初動対応が求められる。
これまでこうした判断は熟練者の経験や暗黙知に依存していたが、システムの複雑化が進む一方でIT人財不足が深刻化していた。こうした課題に対応するため、両社は「JP1 Cloud Service 生成AIアシスタント」の導入に踏み切ったと言える。
実運用を想定したPoCでは、AIによるアラート発生時の対処手順の絞り込みにおいて97%以上の判断精度を達成している。この成果は、JPXが蓄積してきた1万件以上のインシデント事例と、約1,600件のテストケースを用いた継続的なチューニングの結果である。
AIが判断根拠を提示するとともに誤りやすい項目のプロンプト補助機能などを実装することで、ハルシネーションを抑制した。これにより、着任して間もないオペレーターでも安定した品質で初動対応を行える環境が整ったと言える。
今後は、人が担っている障害発生時の初動切り分けや後続のエラー対処業務にもAIエージェントの適用を拡大していく予定であり、JPXが掲げる長期ビジョンの実現に向けた大きな一歩となる。
※JP1 Cloud Service:日立が提供する、ミッションクリティカルなシステム運用の高度化や安全な自律運用を支援する統合システム運用管理サービス。
金融インフラの属人化解消とレジリエンス強化がもたらす光と影の展望
今回のAI本格適用は、金融市場を支えるインフラの信頼性とレジリエンスを一層高める上で大きなメリットをもたらす。
最大の利点は、熟練者の経験に頼っていたアラート対処の判断品質が平準化され、業務の属人化が劇的に解消される点にある。これにより、人員構成の変化に左右されない持続的な運用体制の構築が可能になると考えられる。
また、日立が推進する「HMAX AI Operations」との連携を通じて、予兆検知や大量アラートの自動振り分けなど、将来的な運用高度化への発展も大いに期待できる。
一方で、ミッションクリティカルな領域におけるAI活用には見逃せないリスクや課題も存在する。
高度な自律運用への移行が進むほど、万が一AIが判断を誤った際の影響範囲は計り知れず、責任の所在やガバナンスの維持が複雑化する懸念がある。
したがって、技術的な精度向上を追求するだけでなく、システム障害が発生した際のエラー対処や最終的なリスク管理において、人間がどのように介入すべきかという体制づくりが今後の成否を分けるカギになると言える。
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