AIが高齢者の呼吸と心拍数を分析 尼崎市・東洋大ら、詐欺電話検知率82%の実証成果を発表

2025年5月15日、兵庫県尼崎市と東洋大学、富士通が共同で進める「高齢者の特殊詐欺対策」に関する実証研究の成果が公表された。AIが電話応対中の呼吸や心拍数を分析し、詐欺の可能性を82%の精度で検知できることが確認された。
高齢者の生体データから詐欺リスクをAIが推定 実証実験で高精度を記録
今回の研究は、高齢者を狙った電話型の特殊詐欺被害が深刻化するなか、AI技術による予兆検知で被害を未然に防ぐことを目的としており、今後は研究結果をもとに商品開発を目指すとしている。
実証は令和4年春からスタートし、尼崎市内に住む高齢者108人を対象とした。
中でも2024年11月には、生成AIで作られた詐欺役の音声を用いた実験が実施され、より現実に近い状況下でのデータが取得されたという。
参加者の自宅には、呼吸数や心拍数を測定するセンサーが設置された。
通話時の心理的な動揺や緊張は、身体の生理反応として現れる。研究チームはこれらの変化をAIがリアルタイムに解析することで、詐欺の可能性を数値化する仕組みを構築した。
結果として、AIによる検知精度は82%に達した。従来の詐欺対策では見逃されていた「生体反応の変化」に着目した新しいアプローチとして注目できる。
この成果により、高齢者自身の判断に頼らず、周囲やシステム側で早期に異変を察知できる可能性が高まった。
研究を主導した東洋大学の桐生正幸教授は、「特殊詐欺削減に向け、社会に実装できる装置を作るうえでの素地ができた」と述べている。
富士通が製品化を視野、高齢者見守りの新たな潮流となるか
富士通は今回の実証成果を踏まえ、検知システムの商用化に向けた取り組みを進めているという。
しかし、実装に向けては課題もあると思われる。
たとえば、生体反応の個人差や、日常会話との区別精度、プライバシーへの配慮などである。
特にAIが心理状態を解析するという点で、利用者の同意や情報管理の徹底が不可欠となるだろう。さらに、システムの導入が新たな不安や誤検知を招かないよう、ユーザー教育や運用体制の整備も求められると考えられる。
それでも、呼吸や心拍といった「無意識下の反応」を活用する本手法は、今後の高齢者見守りや遠隔医療の領域にも応用可能性を広げると考えられる。
高齢社会を支えるテクノロジーとして、社会実装への期待は着実に高まりつつある。