リコージャパン、機密情報対応の生成AIキットを提供開始 金融・医療の現場で導入進む可能性

2025年4月7日、日本国内のリコージャパンが、自社サーバーで大規模言語モデル(LLM※1)を活用できる法人向けAIサービス「RICOHオンプレLLMスターターキット」を開始すると発表した。機密性が重視される業界において、生成AIを安全かつ業務効率化に役立てる新たな選択肢として期待されている。
機密性と効率性を両立する新サービスの全貌
本キットには、生成AIのコア技術であるLLMを含めたサーバーや関連ソフトウェア一式が含まれており、導入支援から運用後の保守・教育サポートまでを一括で提供する。導入費用は約1500万円、さらに年間で約100万円のサポート費用が必要となる。
最大の特長は、社内に設置されたサーバー上でAIが稼働する点だ。
これにより、顧客情報や診療記録、製造工程のデータなど、業務上の機密情報が外部に漏洩するリスクを最小限に抑えることができる。
具体的な活用例も示されている。
銀行業務では、融資審査に必要な稟議書作成の下書きをAIが担うことで、審査担当者の業務負担軽減が期待される。
さらに、医療現場では過去の臨床データを基にした文書作成、エネルギー分野ではインフラ保守に関する記録の調査や分析への応用など、幅広い業務での活用が見込まれている。
加えて、リコーグループは米メタが開発した「Llama 3」をベースに自社独自のLLMを構築しており、日本語業務にも高精度で対応可能だ。この点は外資系サービスとの差別化にもつながるだろう。
オンプレ型ソリューションの今後の展望
「RICOHオンプレLLMスターターキット」のような社内完結型生成AIは、特定業界のスタンダードになっていく可能性が高い。今後、個人情報保護やサイバーセキュリティに対する規制強化が国内外で進むと予測されており、それに伴い「クラウドは使いたくないがAIは使いたい」というニーズが拡大するだろう。
金融や医療に加え、自治体・官公庁・教育現場といった公共性の高い分野でも応用が進むと見られる。これらの領域では、既存業務に対するデジタル人材不足が深刻化しており、AIによる効率化支援への期待は強い。
業界ごとのニーズに応じたカスタマイズ支援が充実すれば、より幅広い業種への導入が加速する可能性もある。
競合としては、クラウドベースでAIを提供する外資系企業や、国内SaaSベンダーなどが挙げられる。しかし、オンプレミス型の包括支援をここまで整備したサービスは限られている。導入後のスムーズな運用までを考慮すると、リコーの提供するサービスは高い競争優位性を持つと言えるだろう。
リコージャパンのAI戦略は、単なるツール提供にとどまらず、業務全体のDX(※2)を推進する仕組みの提供へと移行しつつある。生成AIの活用が効率化を促進する中、同社の取り組みは、今後さらに注目を集めそうだ。
※1 大規模言語モデル(LLM):膨大なテキストデータから学習し、自然言語を理解・生成するAIの基盤技術。文書要約やチャット応答など、多様な言語処理タスクに対応可能。
※2 DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術を活用して、業務プロセスやビジネスモデルを革新する取り組みのこと。企業の競争力強化を目的とする。