グラブ、初のAI研究拠点をシンガポールに開設 東南アジア7億人市場へ本格展開

2025年5月23日、シンガポールの配車サービス大手グラブが、同国で初となる人工知能(AI)の専門研究機関を開設した。東南アジア市場全体に向けたAI活用を本格化する狙いで、政府支援のもと、事業基盤を強化する。
グラブ、東南アジア初のAI研究機関を始動
配車アプリ大手のグラブは、シンガポールにて、AI専門の研究拠点「AIセンター・オブ・エクセレンス(AI COE)」を正式に開設した。同社がAIに特化した独立研究機関を構えるのは今回が初めてであり、本部はワンノース地区に新設された本社ビル「タワーB」内に設置された。
本施設の開所は、シンガポール経済開発庁などが共同で運営する産業振興組織「デジタル・インダストリー・シンガポール(DISG)」の支援を受けて実現した。
開所式にはグラブ共同創業者でCEOのアンソニー・タン氏に加え、同国副首相のガン・キムヨン氏も出席し、政府と民間の連携姿勢が明確に示された。
同センターでは、配車や宅配を含むグラブの広範なプラットフォームにおいて、AIを全面的に活用するためのソリューションを開発する方針だ。
対象は利用者のみならず、運転手や配達員といったプラットフォームワーカー(※)や提携企業までを含み、サービス全体の価値向上を狙う。
新設されるAI COEでは、3つの重点分野を柱に研究が進められる。
第一は「AIのアクセシビリティ向上」、第二に「従業員やドライバーの生産性向上」、そして第三に「シンガポール政府のスマート・ネーション構想への寄与」である。
これらはいずれも、社会全体の効率性と包摂性を両立させる狙いがある。
AIによる生産性向上と包摂的成長 東南アジア全体の底上げも視野に
グラブの最高技術責任者(CTO)サウザン・トーマス氏は「当社プラットフォームではすでに1,000超のAIモデルを使っている。新研究機関を通じてAI技術をさらに高め、『AIファースト』を進めたい」と語っている。
この発言は、東南アジアが約7億人の人口を抱える巨大市場であることに加え、スマートフォン普及率やデジタルインフラの進展により、AI活用余地が大きいという地域特性を踏まえたものだろう。
AI COEの成果は、交通、物流、金融など複数の分野に波及する可能性があり、同地域の経済成長にも資する可能性がある。
ただし、AIモデルの品質確保やデータプライバシーに対する規制対応など、課題も少なくない。特に多民族・多言語社会である東南アジアでは、AIの設計や実装における文化的な配慮が重要となるだろう。
グラブがどこまで地域ニーズに即したAI開発を行えるかが、今後の成否を左右しそうだ。
※プラットフォームワーカー:オンライン上のアプリやサービスを通じて業務を行う労働者。配車ドライバーやデリバリー配達員などが代表例。