Genesys Cloudが描く次世代コンタクトセンターの姿 AIで顧客意図を読み解く新戦略

2025年5月15日、米Genesys Cloud ServicesはAIを活用し、顧客の意図をリアルタイムで把握する新たなコンタクトセンター構想を発表した。日本市場における業績好調を背景に、AI主導のカスタマーエクスペリエンス改革が本格化しつつある。
AI活用がもたらす顧客体験の進化
米国に本社を置くGenesys Cloud Servicesは、AIによる顧客意図の理解とパーソナライズ対応を軸とする新たなコンタクトセンター戦略を打ち出した。
日本での事業説明会に登壇した代表取締役社長ポール・伊藤・リッチー氏は、国内市場における需要の変化とAI技術の融合による可能性について言及した。
背景には、日本のコンタクトセンターが直面する課題がある。
従来のオンプレミス型システムからクラウド型への移行が加速する中、利用者は「同じ担当者でなくとも、自分の意図を理解した先回りの対応」を企業に求めている。
このニーズに応えるため、GenesysはAIを活用した対話の自動化やオペレーター支援機能の強化を推進している。
新たに掲げられた「エクスペリエンスオーケストレーション」(※)は、顧客の過去の行動履歴や感情を分析し、最適なタイミングで最適な手段を選択する仕組みである。顧客一人ひとりに合わせたリアルタイム対応を可能にし、問い合わせや相談の瞬間に即座に価値を提供することが狙いだ。
なお、2025年1月期の決算によると、Genesys Cloudの売上高は前年比で40%増加し、導入企業数も20%拡大している。
特筆すべきは、金融業界での採用が前年から70%も増えている点で、信頼性と安全性が重視される分野においてもAI技術が受け入れられ始めていることが読み取れる。
※エクスペリエンスオーケストレーション:顧客データや過去のやりとりをもとに、リアルタイムで最適な対応を自動的に調整・提供するCX(顧客体験)設計の概念。
AI Studioが切り拓く業務革新 ノーコード化で変わる企業の戦い方
今後の展望として注目できるのが、2025年下期にリリース予定の「AI Studio」である。
このツールにより、企業は専門的なプログラミング知識がなくとも、業務に特化したAIエージェントをノーコード(※)で構築できるようになる見込みだ。
各企業のニーズに合致したチャットボットや自動応答エージェントの開発が加速する見通しである。
競合となる他のクラウド型コンタクトセンター製品と比較しても、Genesys CloudはAI機能の豊富さと、SalesforceやGoogle Cloudなどとのエコシステム連携において優位性を保っているが、さらに市場シェアを拡大するためには、今後も継続的な機能強化と柔軟な対応が不可欠となるだろう。
急速に変化するCX領域において、AIを軸に据えたGenesysの取り組みは、単なる効率化にとどまらず、体験そのものを価値に変える試みである。
今後、企業がどのようにAI技術を戦略に取り込むかは、競争力を左右する大きな分岐点となるだろう。
※ノーコード:プログラミング不要でアプリや機能を作成できる開発手法。非エンジニアでも高度なシステム構築が可能になる点で注目されている。