量子とAIが交差する新拠点「G-QuAT」始動 日本の計算技術が社会実装フェーズへ

2025年5月18日、茨城県つくば市にある産業技術総合研究所(産総研)において、量子技術と人工知能(AI)の融合による次世代計算技術の社会実装を目指す研究拠点「量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)」の落成式が開催された。
世界最高水準の計算環境を中小企業にも開放するというビジョンが注目を集めている。
1600億円規模の国家プロジェクトが始動
つくば市に完成した「G-QuAT」は、量子技術とAIを融合させた新しい計算技術の開発・実装を担う国内最大級の研究拠点である。
岸田政権が主導した国家予算により、2022年度・2023年度の補正予算で合計620億円が投入された。さらに、2024年度補正予算では約1000億円の追加投資が行われ、総事業費は1600億円を超える見通しだ。
本拠点の特長は、異なる原理に基づく3種の量子コンピューターを同時に導入している点にある。
富士通製の超伝導型、米国製の中性原子型、東京大学などが手掛けた光量子型という3方式が共存し、それぞれの特性を活かした研究が展開される。
これらは施設内のスーパーコンピューターとも連携し、極低温での部品試験が可能な冷凍設備も整備済みだ。
G-QuATでは、材料開発、金融、創薬、生成AIといった領域をターゲットに研究が進められる予定である。
石破茂首相は落成式で、「中小企業にも開かれた高度な共同研究設備が整えられており、日本の研究開発が飛躍する礎になる」と語った。
この施設は産総研単独ではなく、外部の企業や研究者も有償で利用できる開放型であり、産学官を超えた共創空間としての期待も高まっている。
中小企業の巻き込みが今後の焦点
量子コンピューティング技術は、米国や中国、EUなどが国家戦略として大規模投資を進めており、日本も後れを取らないためには「社会実装」への加速が不可欠となっている。G-QuATは、基礎研究にとどまらず実用化を見据えた技術開発に焦点を当てており、産業界への直接的な波及を志向しているのがユニークな点だ。
特に注目すべきは、中小企業にも門戸が開かれていることだ。
高度な計算設備は従来、大企業や国立機関に限定されることが多かったが、G-QuATでは中小規模のスタートアップやベンチャー企業にも活用が可能な仕組みを導入している。
ただ、中小企業の利用促進を掲げてはいるものの、実際に先端設備を活用できる人材や技術基盤が地域企業にどれほど備わっているかは未知数である。
現場でのニーズと設備の高度さにギャップが生じれば、利用されない先端施設になる懸念も拭えない。
G-QuATの成否は「技術開発」そのものよりも、それを「どう社会と接続させるか」にかかっていると言える。
開放型の拠点構造が形骸化せず、真にイノベーションを創出する場として機能するかどうかは、今後数年の政策運営と、産学官連携の柔軟性次第だろう。