英国NHS、AIによる乳がん診断の世界最大規模の試験を開始　診断の迅速化と課題

英国保健・社会福祉省（DHSC）は日本時間2025年2月4日、英国国民保健サービス（NHS）によるAIを活用した乳がん診断の大規模試験を開始することを発表した。AIが放射線科医と同等以上の精度でマンモグラムを分析できるかを検証し、診断の迅速化や医療リソースの効率化を目指している。
この試験は世界最大規模となる見込みであり、医療の未来を左右する重要な一歩となりうるだろう。

NHSが進めるAI活用の狙いと試験の詳細

NHSが今回の試験を開始する背景には、放射線科医の人手不足と、診断需要の増加がある。
英国では乳がんスクリーニングの受診者数が増えており、診断の遅れが課題となっている。そこでAIを「セカンドリーダー」として活用し、診断精度を保ちつつ業務負担を軽減することを目指している。

この試験では、イングランド全土で約70万件のマンモグラムが対象となる。
AIは全体の約3分の2（約46万2,000件）を分析し、残りの約23万8,000件は従来通り放射線科医が診断する。AIの診断結果と放射線科医の診断結果を比較し、AIの有効性や精度を検証する仕組みだ。
試験は2025年後半に開始され、結果が出るまでには数年を要すると見られる。

過去の研究では、2023年にスウェーデンで実施された約8万人を対象とした試験で、AIが放射線科医の業務負担を約50%削減しつつ、誤診（偽陽性）の増加を招かないことが確認されている。この結果を受け、NHSはさらに大規模な検証を行うことを決定した。

今後の展望　AI診断の期待感と課題

AI導入によって期待される最大のメリットは診断の迅速化だ。
従来の方法では結果が出るまでに時間を要していたが、AIが放射線科医を補助することで、患者が診断結果を早く受け取れるようになる。また、放射線科医の業務負担を約50%削減できると見込まれており、医療リソースの最適化にもつながる。

しかし、AIの導入には課題も多い。
特に懸念されているのは、アルゴリズムの公平性だ。AIが異なる人種や背景を持つ女性に対しても正確に診断できるかが問われており、バイアスの影響を最小限に抑えることが求められる。
また、NHSは放射線科医の不足に直面しており、AIがその解決策となるのか、それとも新たな課題を生むのかについても慎重な検討が必要だ。

NHSの主任科学顧問であるルーシー・チャペル教授は「この試験は乳がんの早期発見における画期的な一歩となる」と期待を寄せる一方、英国放射線科医協会のキャサリン・ホリデイ教授は「AIの可能性は大きいが、リスク管理が重要」と指摘している。

試験の成功次第では、AIが乳がん診断だけでなく、他の医療分野にも応用される可能性がある。
NHSは今後、試験の結果を慎重に分析し、AIの導入が医療現場にとって最適な選択肢となるかを見極める必要があるだろう。