英国アーティスト400人超が「AIからの著作権保護」を求め書簡を送付

2025年5月10日、エルトン・ジョンやイアン・マッケラン、ポール・マッカートニーら400人以上の英国著名アーティストが、キア・スターマー首相に対し「AIからの著作権保護」を求める書簡を送付した。AIの進化と著作権の関係をめぐり、国を巻き込む議論が本格化している。
創作の自由を守るための訴え AI活用と著作権の衝突が浮き彫りに
署名に名を連ねたのは、音楽界のレジェンドであるエルトン・ジョン、ポール・マッカートニー、ロビー・ウィリアムズ、そして文学界からはノーベル賞作家のカズオ・イシグロら、英国の芸術界を代表する面々だ。
書簡では、著作権が「クリエイティブ産業の生命線」であり、約240万人の生計を支える根幹であると強調。無断で作品がAIに学習される現行の状況に、深い懸念を示している。
アーティストらは、技術の進歩そのものに反対しているわけではない。むしろ、音楽・映画・文学などの分野が、かつてからテクノロジーの発展と共に進化してきたと指摘する。
しかしAI企業が著作物を大量に学習データとして利用しながらも、著作権者に対して説明責任を果たしていない点を、今問題視しているようだ。
書簡の内容は、現在英国議会で審議されている著作権法改正案の中で、AI企業が著作物を使用する際、著作権者に通知し、透明性を義務づける条文を支持するよう首相に求めるものだ。
クリエイターの権利保護を強化するこの改正は、芸術活動の未来に直結する課題として注目を集めている。
法案審議とテクノロジーの狭間 クリエイティブ産業の今後は
現在、英国の上院では著作権に関する修正法案の審議が進行中だ。焦点となっているのは、AI企業に対する使用報告の義務化である。
この動きに対し、アーティスト側は歓迎の姿勢を示しているものの、AI業界からは懸念の声も上がっている。
たとえば、シンクタンク「UK Digital Futures」のジュリア・ウィレミンズ氏は、著作権保護を強化しすぎることで、AI開発の場が英国から海外に移転するリスクを指摘している。特にスタートアップ企業にとって、厳格なルールが障壁となる可能性を危惧しているようだ。
AIの発展を加速させたい政府にとっては、成長産業の活力を維持しながら、アーティストの権利をどう守るかという難題に直面している状況だ。
一方で、今回の書簡提出を受け、今後はテクノロジー企業とクリエイターの間で、持続可能なルールづくりに向けた対話が加速することが期待される。
創作物を守ることがイノベーションを妨げるのか、あるいは逆に創造性を刺激するのか。この論点が、今後世界各国で議論が広がる展開もあるだろう。