コインベース、ユーザーデータ保護のため最高裁に意見書提出 IRSの開示要求に法的反論

2025年4月30日、米大手暗号資産取引所コインベース(Coinbase)は、IRS(内国歳入庁)によるユーザーデータ開示要求に対抗するため、米連邦最高裁に意見書(アミカスブリーフ)を提出した。
暗号資産業界における個人情報保護のあり方をめぐる議論が、新たな段階に突入している。
「憲法違反の可能性」コインベースが指摘 個人情報保護を巡る攻防の背景
今回コインベースが意見書を提出した背景には、IRSが顧客である14,000人以上のユーザーに対して、過去の取引履歴や個人情報の提出を求めたことがある。
このような情報要求は税務調査の一環として行われるが、コインベースは、これが米国憲法修正第4条(※)で保障されたプライバシー権に抵触する可能性があると主張する。
意見書では、対象ユーザーに合理的な疑いがないにもかかわらず、網羅的なデータ収集が行われることに対して強い懸念が示された。
特に暗号資産取引においては、個人の財務状況やライフスタイルが詳細に記録されており、それが不特定多数の第三者に渡ることは、実質的な監視に等しいという立場を取っている。
コインベースの動きは、単なる企業防衛にとどまらず、同様の圧力を受けうる他の暗号資産取引所やWeb3関連企業にとっても重要な前例となる。
過去にもIRSは他の取引所に対して大規模な情報開示を求めてきたが、今回のように最高裁レベルでの反論は極めて異例だ。
※米国憲法修正第4条:米国憲法の一部で、不当な捜索や押収から個人を守ることを定めている。
業界全体への波及と今後の見通し プライバシーと規制の狭間で揺れるWeb3ビジネス
今回の訴訟が業界にもたらす影響は小さくないだろう。
もし最高裁がコインベースの主張を認めれば、IRSを含む行政機関の情報要求に対し、暗号資産取引所が法的な防波堤を築くことが可能となる。
一方で、税務遵守やマネーロンダリング対策を目的とした監視の網が緩むことで、規制強化を求める側からの反発も予想される。
Web3領域では、ユーザー主権とデータプライバシーが核心的価値とされてきた。
特に分散型金融(DeFi)や自己主権型IDの普及により、中央集権的なデータ管理への抵抗が強まっている。
コインベースの対応は、これらの潮流に合致する一方、政府との摩擦を伴うリスクもはらんでいる。
また、他の主要取引所や業界団体の動向も注視すべきだろう。
今後は、司法判断だけでなく、議会における法整備の動きが加速する可能性もある。
個人情報保護と税務コンプライアンスのバランスが問われる中、Web3ビジネスにおける「透明性」と「匿名性」の境界線が再定義される局面が近づいているのではないだろうか。