米政権の報告書にAI使用の痕跡 存在しない論文引用で訂正へ

2025年5月31日、米紙ワシントン・ポストは、トランプ政権下で作成された公的報告書において、生成AIの使用が疑われる複数の痕跡があると報じた。
ホワイトハウスは同報告書の訂正を発表しているが、AIの信頼性やリスクの影響が政府文書にまで及んだ形だ。
存在しない論文を引用 報告書にAI生成の兆候
問題の報告書は、ケネディ厚生長官が主導する「米国を再び健康に」委員会が作成したもので、米国の子どもにおける健康問題をテーマとしていた。しかし、報告書内で引用された500以上の文献の一部に、存在しない論文が含まれていたことが判明した。
とりわけ注目を集めたのが、「若年層に対する向精神薬の直接広告―高まる懸念」と題する論文の存在だ。報告書では実在の研究者による論文として記載されていたが、当該研究者が所属する大学は「そのような論文は存在しない」と公式に否定している。
加えて、文献の収集過程において、対話型生成AI「ChatGPT(チャットGPT)」が使用されたとみられる痕跡も複数発見された。文章表現の特徴や誤引用の傾向などから、AI特有のパターンが認められたという。
ホワイトハウスは5月29日、こうした誤りを受けて報告書の該当部分を訂正する意向を明らかにしたが、AI技術が政府公式文書に誤情報を混入させるリスクが現実化したといえる。
AIの誤用が招く信頼性の低下 今後の統制が不可避に
AIの積極活用が進む中で、今回の報告書問題は「公的情報におけるAIの信頼性と限界」を浮き彫りにした。
生成AIは文献収集や要約といった作業を効率化する一方で、存在しない情報をあたかも事実のように提示する“ハルシネーション(幻覚)”と呼ばれる問題を内包している。
報告書に見られた誤引用や存在しない論文の挿入は、このAIの特性によるものと考えられる。今後、同様の手法が他の公的資料や議会報告書に広がれば、政府発信情報の信頼性が根本から揺らぐことにもなりかねない。
一方で、AIによる資料作成のスピードや効率は、人手不足の中で無視できない利点でもある。「完全な排除」ではなく、「利用に際する明示的なルール設定と検証プロセスの義務化」が不可欠になるだろう。
現在、米国内ではAIの使用開示義務に関する法整備が議論されており、今回の報告書訂正問題がその議論を加速させる可能性がある。
AI活用と信頼性の両立が求められる中、政府による情報発信の透明性とガバナンスが、改めて問われているのではないだろうか。