パーソル×東大発BAKUTAN、AIで人材マッチング革新へ 動的アルゴリズムで定着率向上を狙う

2025年5月20日、パーソルイノベーション株式会社は、東京大学 松尾研究室発スタートアップのBAKUTAN株式会社と共同で、AIを活用した人材マッチングアルゴリズムの研究開発を開始すると発表した。
対象は日本国内のエッセンシャルワーカー領域で、動的かつ精緻な人材紹介の実現を目指す。
AIと市場設計理論を融合 人材紹介に新マッチング手法
パーソルイノベーションとBAKUTANは、物流・介護・小売などのエッセンシャルワーカー領域における人材紹介業務の最適化に向け、新たなマッチングアルゴリズムの共同研究を開始した。
従来の人材紹介では、履歴書やスキルなどの静的な情報を基に、求人企業と求職者をマッチングする仕組みが一般的だった。
しかし今回の取り組みでは、キャリアアドバイザー(CA)の実務的な判断プロセスをモデル化し、採用・不採用履歴や内定辞退、早期離職といった時系列情報(※1)を加味した“動的マッチング”を実現するという。
パーソルは、日本の労働市場における少子高齢化の進行とエッセンシャルワーカー不足の深刻さを背景に、入社後のミスマッチによる早期離職が企業・求職者双方にとって大きな負担となっている点を問題視している。
こうした課題に対し、BAKUTANが有するAIとマーケットデザイン(※2)の研究知見を活用し、より精度の高いマッチングを可能にするアルゴリズムの開発に乗り出した格好だ。
※1 時系列情報:時間の経過に伴って変化するデータのこと。人材紹介領域では、過去の応募履歴や離職時期などが該当する。
※2 マーケットデザイン:経済学の理論を用いて市場制度やマッチング方法を設計・最適化する学問分野。ノーベル経済学賞の受賞テーマにもなった。
人材流動性に革命なるか 採用精度と定着率の同時向上も
今回の共同研究が目指す動的マッチング手法は、従来の紹介モデルでは捉えきれなかった“人材のジャーニー”全体に対応しうる点で注目できる。
特に、転職市場では時間経過とともに求職者の希望条件や企業の採用方針が変化し続けるため、静的な条件のみに依存したマッチングは限界があった。
これに対し、新アルゴリズムでは採用意思決定の履歴や離職傾向といった変動情報をリアルタイムに学習し、より最適な推薦が可能になるとされる。
また、研究段階で得られた成果は実証実験を経て、実際の人材紹介サービスへの実装が予定されている。将来的には、定着率や活躍度、エンゲージメントなど、入社後のパフォーマンスまでを予測・最適化する高度な仕組みへと進化させる構想もある。
この仕組みが社会実装されれば、採用効率の向上とミスマッチの低減を同時に実現しうる。特に人手不足が深刻なエッセンシャル領域では、求職者・企業双方にとって大きなメリットとなる可能性が高い。
ただし、個人情報の扱いやアルゴリズムの透明性といった倫理的・制度的課題への対応も不可欠であるため、運用には慎重さが求められるだろう。