Audibleで「続 窓ぎわのトットちゃん」配信開始　黒柳徹子の“声”を再現した音声合成技術とは

2025年3月10日、Amazonのオーディオブックサービス「Audible」にて、タレントの黒柳徹子による「続 窓ぎわのトットちゃん」が配信開始された。
本作では、黒柳本人の声を基にした音声合成技術が活用されている。オーディオブックにおける新たな試みとして注目されるこの作品の詳細を見ていく。

音声合成技術を活用した新たな朗読体験

「続 窓ぎわのトットちゃん」は、1981年に出版された「窓ぎわのトットちゃん」の続編である。前作は累計800万部以上を売り上げたベストセラーであり、黒柳自身の幼少期の経験を描いた作品として広く知られている。
続編では、戦時中の疎開生活や青春時代の思い出が綴られ、彼女の人生の新たな一面が明かされる。

本作は、Audibleでの配信にあたり、音声合成技術を活用した点が大きな特徴となっている。第1章は黒柳が自ら朗読し、第2章以降は彼女の声を再現したデジタルナレーションが使用されている。

音声合成技術は、本人の音声データを基に合成し、独特の話し方やイントネーションを忠実に再現するものである。
音声の違和感を抑えるため、黒柳自身が監修に携わり、自然なナレーションを実現した。

黒柳はこの取り組みについて、「技術の進化には本当に驚かされます。このような高度で巧妙な技術を自分の時代に体験できるとは思いもしませんでした」とコメントしている。
従来のオーディオブックとは異なり、著者の声を基にしたデジタルナレーションが採用されたことで、新たなリスニング体験が期待される。

市場に与える影響と今後の可能性

従来のオーディオブックはプロのナレーターや著者自身が朗読する形式が一般的だったが、音声合成技術の活用により、著者の声を忠実に再現しつつ、負担を軽減することが可能になった。
特に高齢の著者や、長時間の収録が困難な場合において、新たな選択肢を提供する技術と言える。

音声合成技術が進化すれば、過去の作家や著名人の声を再現した朗読作品の制作も現実味を帯びてくるだろう。
Audibleがこの技術を導入したことにより、今後、他の作品にも応用される可能性が高い。

一方で、技術的な課題も残る。
音声合成技術がどれほど精巧になったとしても、人間のナレーターが持つ感情の抑揚や表現力と完全に同等になるわけではない。特に、リスナーが音声に違和感を覚えた場合、従来のナレーションに比べて没入感を損なう恐れがある。

業界における影響についても議論が必要だ。
音声合成技術の普及により、プロのナレーターの仕事が減少する可能性が指摘される。また、過去の音声データを利用して著者や他の著名人の声を再現する際、その利用許諾や著作権に関する法的問題も避けて通れない。

総じて、音声合成技術の導入はオーディオブック市場に新たな可能性をもたらす一方で、技術的・倫理的な課題も抱えている。
今後の発展とともに、リスナーの受容度や業界の動向が注目されるところだ。