ファーウェイが新型AIチップ「Ascend 910D」でエヌビディアに挑戦 中国半導体戦略の新局面

2025年4月27日、米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じたところによれば、中国のファーウェイが新型AIチップ「Ascend 910D」の開発を進め、エヌビディアに対抗する動きを強めている。
中国国内の企業と連携し実用化試験を進行中であり、米国の規制を受けながらも技術力を維持し続ける姿勢が鮮明になった。
ファーウェイ、「Ascend 910D」でエヌビディアの牙城に挑む背景とは
ファーウェイは、通信機器とスマートフォン事業で世界的な存在感を放ってきたが、近年はAI半導体市場にも本格参入している。同社は自社開発の「Ascend」シリーズを通じて、AI演算に特化した高性能チップの開発を進めてきた経緯がある。
今回明らかになった新型AIチップ「Ascend 910D」は、その延長線上に位置づけられるものであり、米国エヌビディア製品に匹敵する性能を目指しているという。
エヌビディアは、特にGPU(Graphics Processing Unit ※)市場で圧倒的なシェアを誇り、AI学習や推論に不可欠な計算資源を提供している。これに対抗するため、ファーウェイは独自のアーキテクチャ設計を強化し、中国国内企業との連携によって「Ascend 910D」の実用化に向けた試験を進めている状況だ。
開発はまだ初期段階にあり、性能検証や信頼性評価を含む一連の試験プロセスが必要とされる。
背景には、米国政府が続けてきた中国半導体産業への制裁強化がある。特にトランプ政権下での禁輸措置以降、ファーウェイは自社技術による自立化を進めざるを得なかった。
この環境下で「Ascend 910D」のような製品を世に送り出そうとする動きは、単なる技術開発を超え、中国の産業戦略そのものを象徴しているといえる。
※GPU(Graphics Processing Unit):主にグラフィック処理を担当する演算装置のこと。近年ではAI学習や科学計算など、膨大なデータ処理にも応用されている。
AI市場で加速する中米競争 ファーウェイ新チップがもたらす未来
ファーウェイが開発を進める「Ascend 910D」は、今後AI半導体市場の勢力図を塗り替える可能性を秘めている。
これまでAI向け高性能チップ市場では、エヌビディアが事実上の独占状態を維持してきた。
しかし中国市場の巨大な需要と、国家戦略レベルでの技術自立への取り組みを背景に、ファーウェイが独自のポジションを築く可能性も無視できない情勢になりつつある。
「Ascend 910D」が商業的に成功すれば、中国国内におけるエヌビディア依存を大きく低下させる可能性が高いだろう。
さらに、グローバル市場でもコスト競争力や供給網の多様化を促す引き金となり、中米間のテクノロジー競争を一層激化させる要因になるとみられる。
もっとも、現段階では製品の性能や量産体制に不確定要素も多く、今後の開発進捗が鍵を握るだろう。
ファーウェイにとって、「Ascend 910D」は単なる製品開発ではない。自社の技術的存在感を世界に再び印象付け、中国のAI分野における自立と拡大を示す象徴的プロジェクトといえる。
グローバル市場では、今後ますます「米国対中国」という構図の下で、AIチップ開発競争が熾烈化していく見通しである。