2025年2月20日、仮想通貨取引所FTXの破産債権を巡る新たな詐欺事件が明らかになった。犯人はAI技術を駆使して身元を偽装し、企業から数百万ドルを騙し取ったと報じられている。この事件は、AI技術の悪用による新たな手口として注目を集めている。

AI技術を悪用した巧妙な詐欺手法

FTXは2022年11月に破産を申請し、多くの債権者が影響を受けた。この混乱に乗じて犯人たちはAIによるディープフェイク技術を活用し正当な債権販売者になりすました。具体的にはビデオ通話で購入者と接触し、偽の身分証明書やシンガポールの偽住所を提示するなど巧妙な手口で信用を獲得した。この結果少なくとも2社が被害に遭い、総額560万ドル以上が詐取されたとされる。

詐取された資金はバイナンスなどの海外取引所を通じて迅速にマネーロンダリングされ、追跡が困難な状況となっている。この事件はAI技術の進化が詐欺手法を高度化させている現状を浮き彫りにしている。

専門家の警告と企業が取るべき対策

今後、AIによる詐欺手法はさらに洗練されていくと考えられる。インカ・デジタルのCEOであるアダム・ザラジンスキー氏も、このようなAIを悪用した詐欺が他にも広がっている可能性を指摘している。

ディープフェイク技術は年々進化し、高度な音声合成やリアルタイム変換が可能になりつつある。こうした技術の悪用を防ぐため、企業や政府は新たな対策を講じる必要がある。
企業側では、多要素認証の標準化が進められており、従来のビデオ通話による確認だけでなく、ブロックチェーン技術を活用した身元認証や、AIによる異常検知システムの導入が加速する可能性が高い。また、ディープフェイクの検出技術も急速に発展しており、リアルタイムで偽動画を判別するシステムの普及が期待される。

規制面でも動きが活発化するだろう。欧州連合（EU）ではAIの悪用に関する規制が強化されており、今後、他国でも類似の規制が進むと予想される。特に、仮想通貨取引所など匿名性の高い金融プラットフォームでは、より厳格なKYC（顧客確認）ルールの導入が求められる可能性がある。

ただし、規制強化だけでは対応しきれない課題も多い。詐欺グループは匿名性の高いネットワークを利用し、管轄外の地域で活動するケースが増えると考えられるため、国際的な協力体制の構築が不可欠となる。

技術と犯罪の「いたちごっこ」は今後も続くと考えられるため、企業や個人が詐欺の手口を正しく理解し、適切なリスク管理を続けることが重要となる。