東芝とNICT、LLMを活用した検索拡張生成の高精度化に向け共同研究を開始

2025年4月9日、東芝デジタルソリューションズは、情報通信研究機構(NICT)と生成AI技術の応用を目的とした共同研究を開始した。
両者は、大規模言語モデル(LLM)と検索拡張生成(RAG)技術を活用し、企業内における知識継承と業務効率化の実現を目指す。
少子高齢化と情報継承の課題に挑むAI応用研究
日本では少子高齢化が進行し、労働人口の減少とともに、熟練者のノウハウが次世代に引き継がれにくくなっている。
このような社会課題に対応するため、生成AIの活用が期待されている。東芝とNICTの共同研究は、まさにこの状況を背景にスタートしたものであり、企業に蓄積された知識資産を次世代へ効率的に引き継ぐ仕組みづくりを目的としている。
大規模言語モデル(LLM)は、自然言語処理の分野において圧倒的な成果を上げているが、最新情報や企業特有の知識に対しては限界がある。
そこで登場するのが検索拡張生成(RAG)という技術だ。
RAGは、社内データベースから関連情報を抽出し、それを基に精度の高い回答を導き出す仕組みである。
この技術によって、汎用的なモデルでも、特定業務に即した応答が可能になる。
今回の共同研究では、NICTが保有する日本語特化型LLMや大量の言語データを基盤とし、東芝がRAGの精度向上やAIエージェントの応用技術を開発する。さらに、工場やソフトウェア開発現場でのデータ解析など、具体的な業務シーンでの応用を想定した実証も進められている。企業が抱える“暗黙知の形式知化”という長年の課題に対し、技術的解決策を提供する可能性を秘めた取り組みである。
生成AIがもたらす業務変革と企業の未来像
東芝とNICTによる本共同研究の成果が社会実装された場合、企業活動は大きな転換点を迎えることになるだろう。
たとえば、ベテラン社員の経験を記録・検索可能なデータとして活用すれば、新人や若手社員がその知識に短時間でアクセスし、即戦力として成長できる環境が整う可能性が高い。
これは単なる業務効率化にとどまらず、企業文化や技術の持続的継承に直結するだろう。
また、生成AIを活用したAIエージェントが、社内の質問対応や業務支援を担うようになれば、マニュアル作成や教育コストの削減といった副次的効果も期待できる。
一方、デメリットとしては、RAGを前提としたAIシステムの構築には高い初期コストと情報整備の手間がかかる点がある。
また、AIが抽出・生成する情報の信頼性や責任の所在といった論点も未解決である。
誤情報の拡散や、意思決定の誤誘導が起こるリスクもゼロではない。
今後、他の企業や研究機関による同様の取り組みが加速すれば、生成AIを軸とした新たなビジネスエコシステムが形成されることも考えられる。
生成AIは単なるツールではなく、企業の知的資産を最大限に活用するための中核的存在として、ビジネスの在り方を根本から変えていくことになるだろう。