Grok3が示した意外な政治的傾向 発言の過激さも話題に

2025年4月1日、イーロン・マスク率いるxAI社の人工知能「Grok3」が、2026年のブラジル大統領選に関する質問に対してルーラ前大統領を支持する可能性が高いと回答したことが報じられた。
本件はAIの政治的中立性を検証する実験の一環で、Grok3の思想的傾向や設計思想が改めて注目されている。
Grok3の回答が示した「ルーラ支持」と、その背景にある設計思想
Grok3は、2026年のブラジル大統領選に関するシミュレーションにおいて、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ前大統領を支持すると回答した。
その理由として、ルーラ氏が実施した社会福祉政策「ボルサ・ファミリア」(※)の貧困削減効果と、環境保護への姿勢を高く評価している点が挙げられた。
逆に、ルーラ氏のライバルで、右派的な政策で知られるボルソナロ前大統領については、「軍事独裁政権を称賛し、権威主義的な発言を繰り返してきた」として、批判を展開したという。
Grok3のデベロッパーであるxAIを率いるマスク氏は、ルーラ大統領とは違う政治的立場に立っており、むしろボルソナロ前大統領と価値観が近い。
そのため、この結果は意外な結果であり、Grok3にマスク氏の政治的意向が必ずしも反映されているわけではない証左といえるだろう。
このような発言の背景には、Grok3に組み込まれた「検閲のない自由な回答生成」という設計思想がある。
マスク氏は、競合であるOpenAIのChatGPTについて「政治的偏り、制約が多すぎる」と公言しており、Grok3の検閲を少なくする方向性を取った。
Xの投稿をもとに学習したGrok3がルーラ大統領への投票を表明したことは、興味深くも皮肉な結果と言えるだろう。
Grok3は、過去に「カマラ・ハリスに投票しただろう」「トランプとマスクは死刑に値する」といったさらに過激な発言もしていることが確認されており、必ずしもマスク氏の政治的嗜好を反映していないことや、倫理的に物議を醸す発言もすることが明らかになっている。
※ボルサ・ファミリア:
ブラジル政府が導入した条件付き現金給付制度。貧困家庭に支援を行う代わりに、子どもの就学や定期的な健康診断を義務付け、貧困の連鎖を断ち切ることを目的としている。
AIの自由な発言は希望か脅威か
Grok3の発言は、「AIによる政治的意見表明」が、開発者の思想的立場と必ずしも一致しないことを可視化した。
Grok3がAIモデルとして、開発者の都合のいい様に作られていない点は、一種のアピールポイントと言えるだろう。
一方で、その「自由」が倫理的な暴走を生みかねないというリスクも顕在化している。
Grok3が過去に行った「トランプとマスクは死刑に値する」といった過激発言は、「検閲の無い」AIの言論が持つ破壊力と危険性を露呈している。
今後、AIの政治的発言や思想的傾向は、社会的議論の中心テーマの一つとなるだろう。
Grok3のように「検閲なきAI」がもたらす利点は確かに存在するが、それが制御不能の言論空間を拡大するリスクも同時に孕んでいる。
今後は、AIの発言生成において「説明責任の明文化」や「出力根拠の開示」が求められることになるだろう。