長崎・東彼杵地区でAI活用の次世代交通が始動　デマンド型が本格運行へ

2025年4月1日、長崎県の東彼杵地区にて、新たな町営バスとAI（人工知能）を活用したデマンド型バスの本格運行が始まった。
本件は、AIを活用した公共交通の維持と生活の質向上を図る取り組みとして注目されている。

地域密着の公共交通が刷新　定時運行とAI制御のハイブリッドモデル

今回の施策では、川棚町と波佐見町をつなぐ町営バス「かわたな・はさみタウンバス」と、東彼杵町で展開される予約制デマンド交通（※）「どこっ茶バス」が導入された。
いずれも地域特性に応じた交通網の再構築を目指しており、利便性の向上が期待される。

「かわたな・はさみタウンバス」は平日に10便、土日に7便運行され、最大55人の定員を想定する。
大きな変更点として、JR川棚駅との接続強化や県立川棚特別支援学校へのルート延伸が図られたほか、通勤・通学向けの定期券も新たに導入された。
従来のバス路線が抱えていた“目的地までの距離”という不便を軽減した形だ。

一方、「どこっ茶バス」は東彼杵町内で午前7時から午後5時まで稼働し、休日は運休する。1回200円、小中学生と75歳以上は100円と利用しやすい価格帯を設定している。
使用車両は定員8人の大型タクシー2台で、事前予約に応じてAIが最適ルートを自動算出し、乗降場所も従来のバス停だけでなく町内のごみ集積場や公共施設など、生活圏を意識した地点に拡張されている。
本件は実証実験が2024年3月から約1年間実施されており、その運用成果を踏まえての本格導入となった。高齢者や通学中の学生など、日常的な移動にバスを頼る層にとっては、大きな支援となるだろう。

※デマンド交通：事前予約によって運行ルートが決定される公共交通システム。利用者のニーズに応じた柔軟な運行が可能で、交通弱者の支援策として注目されている。

持続可能な地域交通モデルとしての可能性と課題

本格運行が始まったAIデマンド交通は、地域特性に即した持続可能な公共交通のあり方として注目されている。

最大のメリットは、地域住民の「足」の確保に直結している点だろう。
「どこっ茶バス」に見られるようなAI制御によるオンデマンド運行は、運転手の省人化に寄与しつつ、柔軟なルート設定が可能であるため、効率的な運行が実現しやすい。

一方で、課題も明確だ。
AIデマンド型交通の運用には高度なシステム設計とデータ蓄積が必要不可欠で、導入初期は効率性が発揮されにくい。また、利用者側にもスマートフォンを使った予約や位置情報の提供といった、新たな負担が発生することも無視できないだろう。高齢者やデジタル弱者への配慮は不可欠だ。

実証実験を経て本格運用されたことを踏まえると、今後も運行データの蓄積とAIモデルの最適化が行われる可能性は高いだろう。さらに精度の高い運行も可能になるのではないだろうか。
今回の取り組みは、「AIを活用した公共交通の再設計」の先行事例となるかもしれない。