エヌビディア、中国向けの「ホッパーH20」代替製品を否定 性能を抑えた新製品を展開予定

2025年5月17日、米エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、中国へのAI半導体「ホッパーH20」の輸出規制を受け、同シリーズを用いた代替製品を提供しない方針を明らかにした。代わりに、性能を抑えた新製品の展開を準備しているようだ。
ホッパー改良版は予定なし エヌビディアがとる現実的戦略と背景
半導体大手エヌビディアのCEO、ジェンスン・フアン氏が、中国市場に向けたAI半導体戦略に関する新たな方針を発表した。
AI処理に特化した最新半導体「ホッパーH20」は、米政府の輸出規制対象となっているが、中国向けにその改良版を投入することもないと発表した。
フアン氏は「ホッパーシリーズの別のバージョンを中国向けに提供することはない」と断言。設計の性質上、規制をクリアする性能への調整が不可能であることが背景にあるという。
この発言の裏には、米国の対中技術輸出規制の影響がある。特にAI向け半導体分野では、中国軍事転用の懸念を理由に、高性能製品の輸出が段階的に制限されてきた。フアン氏はこの政策に対して「米これまでのAI輸出規制は誤っており、米国の技術を世界的に最大化することに焦点を当てるべきだった」と批判をにじませた。
なお、2023年の会計年度における中国市場での売上は170億ドルに達し、同社の全体収益の約13%を占める。この数字からも、中国市場が依然としてエヌビディアにとって無視できない存在であることは明らかだ。
ホッパーを排除した代替戦略は、市場の維持と政治リスクの最小化を両立する現実的な判断と言える。
米中対立と半導体戦略の交差点 ダウングレード版H20の投入がもたらす可能性
中国市場から完全に撤退しない姿勢を示したエヌビディアは今後2カ月以内に性能を制限したH20の派生モデルを投入する計画で、これはホッパーとは異なる設計になると見られている。
この製品により、規制を回避しながらも中国市場におけるエヌビディアのプレゼンスを維持することが可能になると思われる。一方で、中国企業側も米国製品への依存度を下げる動きを強めており、今後の販売実績には不透明感も残る。
こうした状況のなかで注視すべきは、米国の政権交代による政策変更の可能性だ。
2024年大統領選で再び表舞台に立ったトランプ大統領は、バイデン政権下で導入されたAI半導体輸出規制の撤廃に前向きな姿勢を示している。
仮に規制が緩和されれば、エヌビディアは再び高性能製品を中国に供給するルートを取り戻せる可能性がある。ただし、米議会や国防関係者の反対も予想されるため、予断も許されない。
企業戦略としては、エヌビディアが中国に対し一定の技術供給を継続する一方で、北米や欧州、中東など、代替市場への展開も強化していく必要があるだろう。
規制回避のために新設計モデルを開発することは、コストの増大につながると思われるが、長期的には、グローバル供給網の分散とリスクヘッジにつながる可能性もあるだろう。