ワタナベエンタ、AI×音声で“つながる”チケット体験 25周年コンサートで「テレAIカート」導入

2025年5月9日、ワタナベエンターテインメントは、設立25周年記念の特別公演に向け、AI音声技術と電話を組み合わせた新たなチケット販売サービス「テレAIカート」の導入を発表した。
AI音声で“推し”が案内、コンサートのチケット購入が特別な体験に
ワタナベエンターテインメントが展開する「ワタナベ25thコンサート『ハッピーバースデー&サンキュー』」は、2025年6月18日から22日までの5日間、東京国際フォーラム ホールCにて開催される。
この記念イベントに向けて導入された「テレAIカート」は、AIと電話を融合させた音声通販サービスであり、エンターテインメント体験を再定義するものといえる。
本サービスは、テレ株式会社との連携により実現された。
ファンがコンサートチケットを購入する際、公式サイトやファンクラブページ内にある特設ボタンから「テレAIカートショップ」へアクセスし、希望日時を選択後、タレントの音声による電話ガイダンスに従って注文を完了させるという仕組みである。
最大の特徴は、ガイダンスを担当する音声が所属タレント本人の収録音声である点にある。リアルな声が応答することで、まるで推しのタレントと直接会話しているかのような没入感が生まれる。これにより、単なる購入手続きが、ファンにとって“エンタメの一部”となる見込みだ。
“推し経済”を加速させる新潮流、音声AIが変えるファンマーケティングの未来
「テレAIカート」の導入背景には、ワタナベエンターテインメントの明確な戦略があると考えられる。
近年、推し文化を核とした“推し活”市場が拡大する中、ファンが「推しとつながっている」と感じる機会の創出が、エンターテインメント産業における新たな競争軸となっている。
AI音声を用いた今回のサービスも、そうした需要に直接応えるものであり、感情的な価値を重視するZ世代以降のユーザー層にもマッチすると思われる。
一方で、業界全体での類似事例はまだ少ない状況だ。
現段階では、音声AIをファン向けに活用したチケット販売は非常に先進的な取り組みであり、他社に先駆けた導入は話題性と差別化の両面で優位に働く可能性がある。今後、他の芸能プロダクションやライブイベント運営会社が追随すれば、音声AIによるファンエンゲージメントは新たなトレンドとなるだろう。
ただし、技術的な完成度やタレントごとの声の使い方、プライバシーや肖像権との関係といった課題も同時に浮上する。サービスの継続的なブラッシュアップと、ユーザーからのフィードバックを反映した体験設計が今後の成否を左右しそうだ。
とはいえ、「推しにチケットを案内される」という特別な体験は、ファン心理に強く訴求するだろう。人間の“声”に宿る感情や温度感は、テキストや映像では補えない力を持っているため、エンタメの最前線に立つ企業として、ワタナベエンターテインメントは今後も“体験そのものを商品にする”戦略を拡張していくと思われる。