カナダ州政府、G7初のSMR建設計画を承認 AI時代の電力インフラへ布石

2025年5月8日、カナダのオンタリオ州政府は、次世代型原子炉である小型モジュール炉(SMR)の建設計画を正式に承認したとブルームバーグが報じた。
G7諸国で初となる本格的なSMR導入であり、AI時代における急増する電力需要への新たな対応策として注目されている。
G7初のSMR導入、オンタリオ州が原子力再興に向けた一歩を踏み出す
カナダの州営電力会社であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)は、同国東部のダーリントンにおいて、GEベルノバが設計を手がけた小型モジュール炉(SMR)を4基建設する計画を進めている。
今回、4基のうち1基が州政府の設計認可が下りた。1基目の建設費は約61億カナダ・ドル(約6400億円)とされ、総事業費は約209億カナダ・ドルに達する見通しだ。
OPGは2023年に、GEベルノバ傘下の原子力事業会社GE日立ニュークリア・エナジーと提携し、ダーリントンに同社のSMR『BWRX-300』を導入する契約を結んでいる。
このSMRの出力は約300メガワットと従来の原子炉に比べて小さい。
ブルームバーグNEFの原子力アナリストであるクリス・ガドムスキ氏は、本計画の承認について「非常に重要なことだ」と述べた。
今回のSMR建設を経験し、2基目以降のコストは低くなることを指摘。
米国やカナダは、原子力分野において中国やロシアの後塵を拝している状況にあり、今回の動きはその巻き返しの起点と捉えられている。
AI時代の電力危機に備える SMRが切り拓く次世代インフラの可能性
AI技術の急速な普及に伴い、電力需要はかつてないペースで拡大している。
特に、生成AIや大規模言語モデル(LLM)を支えるデータセンターの電力消費は年々増加傾向にあり、持続可能かつ安定した供給体制の構築が喫緊の課題となっている。
今回カナダが承認したSMR建設計画のメリットは2点挙げられる。
第一に、電力の安定供給源としての信頼性である。天候に左右されず、AIやデータセンターによる需要の変動にも柔軟に対応可能とされる。
第二に、建設期間や立地の自由度の高さだ。従来の大型原子炉に比べて構造がコンパクトであり、建設期間が短く、モジュール化による量産効果も期待できる。
一方、最も大きな課題はコストと商用化リスクである。現時点では1基あたり約6400億円という巨額の初期投資が必要だ。
とはいえ、カナダの今回の承認は、西側諸国における原子力ルネサンスの先陣となる可能性がある。
特にAIによる電力消費の加速が顕著である現在、SMRのように「安定」「柔軟」がそろったエネルギー源は、次世代インフラの中核として位置づけられていくだろう。