AIが中央銀行のメッセージ読み解く ECB政策予測の精度が劇的向上、独DIW報告

2025年4月16日、ドイツ経済研究所(DIW)は、欧州中央銀行(ECB)の金融政策予測にAIを活用することで、予測精度が従来の70%から80%へと向上したと発表した。
欧州で進行する中央銀行のAI分析導入は、政策決定の先読みという新たなステージに入った。
金融政策の予測が可能に
DIWによるこの研究は、ECBが過去6年にわたって発信してきた声明や講演内容など、中央銀行の「言葉」に内在する金融政策のシグナルをAIで解析するというものだ。
対象期間は2019年1月から2025年3月までに及ぶ。
研究チームは、AIベースのテキスト分析モデル(※)を独自に訓練し、各発言を「引き締め的」「緩和的」「中立的」の3つに分類した。
これをもとに、政策金利の推移やインフレ率、不確実性指標と組み合わせて予測モデルを構築した。
この手法により、これまで70%程度とされていたECB金融政策の予測精度は80%近くまで向上。
報告書を執筆したDIWのケルスティン・ベルノート氏は、「中央銀行は言葉を金融政策の手段として使って」おり、その選択には計算された意図があると語る。
講演やインタビューなどの発言は、その時々の政策意図を読み取るための“暗号”であり、AIがそれを解読することに成功したと言える。
報告書では、実際にこのモデルが2025年4月17日に予定されているECB理事会での追加利下げの可能性を「高い」と予測していた。
市場は今後、このAI分析を通じて、より精度の高い政策予測を手に入れることになるだろう。
※テキスト分析モデル:
膨大な文書データを自然言語処理技術で解析し、文の意味や意図、感情などを数値化・分類する手法。今回の研究では、金融政策における文言のニュアンスを読み解くために特化して訓練された。
情報格差と金融戦略の変化
AIによって政策予測技術が向上すれば、金融市場の情報環境に重大な変化をもたらすかもしれない。
従来、市場参加者は中央銀行の声明を人力で解釈していたが、今後はAIモデルによるリアルタイムの“翻訳”も重要になる可能性がある。
これにより、中央銀行の意図が即座に市場に反映されるため、ボラティリティの抑制や取引戦略の高度化が進むと考えられる。
一方で、こうした技術の普及が進むと、AIを活用できる投資家とそうでない投資家の間に情報格差が生まれるリスクもある。
AIによる分析力が市場の優位性を左右する時代が到来し、金融戦略は「読みの深さ」よりも「解析の精度」が問われる場面が増えていくだろう。