三菱食品、SENSYへの出資と業務提携を発表 食品流通向けAIサービスの開発に着手

2025年4月15日、三菱食品は感性AIを開発するSENSYへの出資と業務提携を発表した。両社は今後、食品流通業界に特化したAIサービスの共同開発を進める構えで、業界全体の高度化と効率化が期待されている。
食品流通業の変革を狙う提携 SENSYの感性AIと三菱食品の現場力を融合
今回の提携は、三菱食品が掲げる経営ビジョン「MS Vision 2030」の一環として打ち出されたものだ。国内外の加工食品や低温食品、酒類、菓子など多岐にわたる流通事業を展開する同社にとって、業務効率の向上や需給精度の改善は長年の課題とされてきた。
こうした背景のもと、AI技術の導入は持続可能な成長に向けた重要な手段と位置づけられていると考えられる。
出資先であるSENSYは、ユーザーの感性データ(※)をもとに行動や嗜好を予測する独自のアルゴリズムを有している。この技術は「SENSY CLOUD」と呼ばれるAI基盤上で展開されており、既に複数業種で導入実績がある。
今後は、三菱食品の持つ膨大な流通データと組み合わせることで、在庫の最適化、需要予測、マーケティング分析といった実務面での活用が見込まれている。
三菱食品は「食のビジネスを通じて持続可能な社会の実現に貢献する+サステナビリティ重点課題の同時解決」という目標を掲げている。
両社が目指すのは、単なるAIツールの導入ではないだろう。SENSYの持つAI人材と技術、そして三菱食品の現場理解と業界ネットワークを融合させることで、食品流通のサプライチェーン全体を最適化するサービスの創出を視野に入れている。
※感性データ:消費者の趣味嗜好、選好傾向など、数値化が難しい主観的情報を意味する。SENSYはこれをAIで解析し、パーソナライズされた予測や提案を実現している。
業界構造を変える可能性も AI活用がもたらす次の成長ステージとは
食品流通業界では近年、少子高齢化や人手不足、食品ロスといった課題が深刻化している。こうした中、AI技術の導入は単なる効率化にとどまらず、社会課題の解決と事業の持続性確保にも貢献する手段と考えられている。
今回の提携も、そうした問題意識を共有したうえでの戦略的連携といえる。
とりわけ注目されるのは、SENSYの持つ「感性」に着目した解析技術である。これは従来の統計的なアプローチとは異なり、個人の潜在的なニーズに踏み込むことが可能で、需要の先読みや商品開発にも新たな切り口を提供できるだろう。
マーケティング領域での精度向上も視野に入るため、流通以外の部門への展開も期待される。
一方で、AI活用による業務変革には、既存の業務設計や社内文化の変化が求められる。導入コストやデータの整備といった課題も残されており、スムーズな展開には中長期的な視野が不可欠と考えられる。
ただし、こうした挑戦を乗り越えることで、AIが食品流通の現場にもたらす恩恵は大きいだろう。業務効率の改善のみならず、持続可能なサプライチェーンの実現という観点でも意義深い動きといえそうだ。